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2.子供消失の証言
2.子供消失の証言
時刻は十七時十五分。
千葉県○○市にある大きな古い公園に、須田林太郎・伊勢間光義・そして無理矢理連れて来られた高円寺神奈の三人が到着する。
須田林太郎部長の話によれば、一か月前からこの公園で遊んでいた子供の一人が背の高い謎の女性に手を引かれながらどこかに連れて行かれるのを、近くで遊んでいた他の子供が見ていたというのだ。
その後いなくなった子供の家族が捜索願いを出した事から警察は捜査を開始するがどこを探しても子供は見つからず。そればかりかまるで警察をあざ笑うかのように週に一回のペースで、第一週・第二週・第三週・第四週と、合計四人もの子供達が立て続けに行方不明になっているとの事だ。
八尺様ではなく、なぜ九尺様だというと、謎の女性に連れて行かれる際に一人の子供が「九尺様……九尺様が迎えに来た」と、まるで何かに魅入られたかのように言葉を発し続け、そのまま闇に消えていくのを他の子供達が目撃している。
故に噂は町へと広がり、皆が恐れる九尺様の都市伝説がこの地で完成したのだ。
そんな話を須田部長から聞かされた光義と神奈はなんだか胡散臭い話だと途中までは思っていたが、話が進むに連れ、実際に行方不明者がいる事に何らかの事件性を感じつい聞き耳を立ててしまう。
それもそのはず、一か月前と言ったら、あの首切りの怪異・首切り坊主が現れた日にちとかぶっていたからだ。
もしも九尺様という怪異があの首切り坊主と同系統の妖怪だというのなら、その陰には邪神様と呼ばれる邪悪な存在が関わっていても別に可笑しくはない。
光義は誰もいない公園で、証拠となる品々を探そうと意気込む須田部長に声を掛ける。
「じゃ俺達も須田部長と一緒に、消えた子供達と謎の女性とを繋ぐ証拠の品を探せばいいという事ですね」
「そうだ、その白いワンピースを着た女性が妖怪であろうと人間であろうと、なにか証拠を残しているかも知れない。この一か月の内に連れさらわれた四人の子供達の物的証拠も同時に探し出すんだ!」
警察も丹念に探したはずの公園内を再び捜索しろと無茶振りする須田部長に対し、話を黙って聞いていた高円寺神奈が呆れ気味に反論する。
「一体なにを調べるというんですか。子供達を連れ去ったその背の高い女性の証拠となる品を見つけろとの事ですが、そんな事は当然警察がもう既にしていると思いますし、素人でもある私達の出る幕はありません。それに子供達を連れ去ったとされる女性が本当に妖怪を表す怪異なのかは正直怪しい所です」
「怪異だよ、絶対に。実はこの行方不明現場に、俺の家の小学生の従兄弟もいたんだが、その時にその従兄弟は咄嗟に持っていたスマホの録画機能で、行方不明になった小学生を連れ去る背の高い女性の後ろ姿を録画していたんだ。その動画を確認できたからこそ、この事件は妖怪の仕業だと確信し、お前たちと共にその怪異を探し出そうと試みたのだよ」
「でも、その怪異も子供達も、そう簡単に見つかるとは思えないんだけど」
証拠となる品を渋々探しながらも文句を言う光義と神奈の二人だったが、そんな学生たちの前に、一人の男子小学生が姿を現す。
その小柄な小学生は目が不自由なのか片手に杖を持ち、コツコツを地面を叩きながらゆっくりと公園内に入って来る。
視覚障害者だと思われる男子小学生は背中に背負う黒いランドセルを重そうに揺らすと、人の存在に気づいたのか真っ直ぐ伊勢間光義の方へと近づく。
(なんだ、この小学生は、なんだか不気味だな)
杖で辺りを確認しながら近づいて来る小学生に向けて、最初に高円寺神奈が優しく話しかける。
「どうしたの君、なにか私達に用かしら?」
「あの……いつもここでお母さんと待ち合わせをしているんで、お母さんだと思って近づいたんですけど、人違いでした。すいません」
「この公園でお母さんと待ち合わせをしているんですか。でももう十七時三十分ですし直ぐにこの辺りは暗くなりますよ」
「大丈夫です、いつもこの時間、ここで待っていますから」
警戒しているのか少年は直に話を終えようとするが、何かを感じた須田林太郎がカバンから取り出した古めかしい射影機でその少年を見る。
「もしやと思っていたが、なるほど、おい高円寺、俺たちがこの公園を軽く見回ってくる間、この小学生に付いててやれ。目も不自由そうだし、一人は危険かも知れない」
「なんですか、いきなり。まさか、何か感じた事でもあるんですか?」
疑問の表情を浮かべながら聞く高円寺神奈だったが、須田林太郎の感じた違和感に気づくと彼女もまた、隣にいる謎の小学生を深々と見る。
「あ、あなた……?」
「大丈夫です、お母さんは直ぐに来ますんで、本当に大丈夫ですから」
付き添いを遠慮する盲目の少年に須田部長は尚も強引に言葉を通す。
「母親が本当に来るかどうかを見届けるまでの間だ。小僧、この公園では最近、お前と同じような年頃の小学生が一か月の間に何人もいなくなっている。なのに、こんな危ない所で待ち合わせなんかしたら駄目だろ。俺と光義がこの公園内を見て回っている間、このお姉ちゃんに付き添って貰えと言ってるんだよ。いいよな!」
「わかりました、そちらが迷惑じゃないのなら、お母さんが迎えに来るまでの間、このお姉さんと一緒にいます」
アラーム音で時間を知らせるタイプの腕時計なのだろうか、男子小学生は右腕に付けている腕時計を気にしながら話をするが、もしも誰も来なかった時の事を考えた高円寺神奈は、母親が迎えに来るまで一緒に待つ事を決断する。
「須田部長、任せてください。私、この子の母親が来るまで一緒にここに残るわ。ここは日が当たらない分暗くなるのも早いし、もしも誰も来なかったら流石に危険ですから」
「おい小僧、俺たちが戻るまで勝手に動くんじゃねえぞ。もしも時間通りに母親が来ず、時間を大幅に過ぎてしまったら、迷わずお前を交番に連れていくからな」
ぶっきらぼうに言う須田林太郎の言葉にさすがの光義が割って入る。
「須田部長、言い方。相手は小学生の子供なんですから、もっと優しく言ってください」
「そうか、俺は普通に言っているだけなんだが?」
「そうと決めたのなら、神奈さんはその小学生の傍にいてやってくれ。もしもその子になにかあったら流石に洒落にならないからな。噓か本当かは知らないが、九尺様の件もある事だしな」
お互いにやる事を確認した伊勢間光義は恐縮する男子小学生に視線を向けると、膝を曲げゆっくりとしゃがみ込む。
「そうだ、公園周辺を探しがてら、もしも君の母親らしい人を見かけたら直ぐに知らせるよ。だから、君の名前を教えてくれないか」
「僕の名は石井隆、小学三年生です」
「そうか、君のお母さんに会ったらここにいると必ず伝えるよ」
空を染め上げる真っ赤な夕焼けを見た伊勢間光義は、須田林太郎と共にその場を離れようとする。
動き出そうとした光義と須田部長の耳に、遠くの方から助けを求める子供達の悲痛な声が徐々に近づいて来る。
「きゃあぁぁぁぁ、誰かぁぁ、だれか来てくれ。よっちゃんが、よっちゃんが、知らない女の人に、どこかへ連れて行かれてしまう。助けて、助けて、早くぅぅ!」
必死に助けを呼ぶ子供達の声を聞いた光義と須田部長の二人は、神奈と隆少年の二人にこの場で待つように言うと、子供たちの声が聞えた方へと急ぎ走り出す。
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