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3.目撃
3.目撃
「須田部長、あの疑惑付きの射影機を使って小学生を見ていましたが、なにか見えたものでもあったんですか?」
「ああ、家は代々檀家を持った坊さんの家系だから、俺にも少しは霊力のような物があるんだ。だから気づいた事なんだが、あの隆とかいう坊主、おそらく怪異と遭遇しているかも知れない。俺が持つ呪いの呪物でもある射影機を覗いてみたら、その視界に怪異がいた残り香のような跡がくっきりと残されていた」
「跡が残されていた……それはその射影機で覗き見た結果、怪異がその場にいた痕跡を色で見ることができたと言う事ですか」
「つまりはそう言う事だ。しかも俺が感じたように、その色はあの小学生の体に纏わり付く黒い影のような色だ。だから高円寺神奈をあの小学生に付けたんだよ」
「つまりあの小学生はどこかで怪異に遭遇していると言う事ですか」
「まあ、そう言う事だ。その怪異が何なのかは知らないが、俺が持つこの呪いの射影機は、怪異がいた痕跡やその姿を肉眼で見ることができる代物だ。まあ呪いのペナルティとして、ずっと射影機を使ってレンズ越しに覗いていると頭が割れるように痛くなるというおまけ付きだがな」
「でもその古びた射影機の呪われた機能のお陰で、俺に憑いている神様の事がばれたんですからある意味凄いアイテムですよ。その射影機があれば、たとえ霊体が見えない人でも容易に見ることができますからね」
「まあお前の守護神をこの射影機で見ることが出来たのは、ただの偶然だったんだけどな」
走りながらも須田部長が持つ呪いの射影機の機能に付いて話していると、遠くで助けを呼んでいた数人の子供達が一斉に姿を現す。
余程怖い目にあったのかその小学生達の顔は恐怖で引きつり、汗と涙が飛び散る姿はまさに最悪から必死に逃げてきた事を嫌でも認識させる。そんな一人の小学生を捕まえると須田部長は一体何から逃げているのかを真剣に聞く。
「どうした、何があった。一体お前たちは何から逃げている?」
「そろそろ家に帰ろうと裏門の前を通りがかったら背の高い女性が追いかけて来て、気づいたら公園の中に追い立てられていたの。だからみんなで公園の中を突っ切って表側から出ようとここまで走ってきました。よっちゃんはもう消されちゃったし、早く、早く逃げないとあの女性に、九尺様にみんな捕まってしまう。早くここから逃げないと!」
止まってた足を再び動かそうとした女子小学生は、先を走っていた仲間の悲鳴で思わず体を硬直させる。
「ぎゃぁぁぁあぁぁぁぁーーぁぁ、九尺様があぁ、いつの間にか九尺様が前にいるぞ。一体どうなっているんだぁぁぁ?」
「九尺様、なんで、ついさっきまで私達の後方にいたのに、なんで私達の前に先回りしているの。有り得ない、有り得ないわ!」
光義も須田部長も最初は見えなかったが、背の高さが特徴的な不気味さ漂う一人の女性が姿を現す。
「あそこに、だれかいるぞ?」
「子供達が血相を変えてこっちに戻って来る。一体なにが起きている?」
逃げ去った子供達の前方にいたのは、いつの間にか先回りをしていた白いワンピースを着た高身長の女である。白い麦わら帽子を被った黒髪ロングのその女性は白い腕をゆっくり伸ばすと、ポポーーポポと不気味な声で笑う。
「ポポーーポポポーーポポーーポポポーーポポポォォォ!」
「なんだ、あの高身長の女性は、見た感じは二メートル以上は有にあるぞ。まさかあれが噂の九尺様か?」
「あれがそうだろ。あんな分かりやすい恰好をしたでかい背丈の女、生きている人間でもまずそうはいないだろ。間違いない、あれが九尺様だ!」
射影機に内蔵されているファインダーを覗き込んだ須田林太郎は、白いワンピースを着た背の高い女性が噂の九尺様である事を確認する。
思わぬ形でいきなり現れた九尺様の登場に緊張を隠し切れないでいる光義と須田部長はしばらく固まっていたが、逃げ惑う子供達の悲鳴を聞き、ハッと我に返る。
「須田部長、あなたが持つその呪いの射影機はレンズ越しに霊体を見る機能だけですか。某人気ホラーゲームの射影機みたいに幽霊を封じる事は出来ないんですか!」
「できる訳ないだろ、そんな都合のいい攻撃方法があるんなら、もうとっくにやっているわ!」
「使えない射影機ですね」
「ていうか、お前が例の神様を使って、九尺様にぶつけたらどうだ!」
「無理です、どうやって呼び出すかも正直分からないですし、神奈さんの話だと、九尺様の謎を解き明かさない限り、暁の神は降りては来ないみたいです!」
「お前こそ使えないだろ。だが、この射影機でお前を見た感じじゃ、例の神様はいつもお前の後ろに突っ立っているんだけどな」
「ぇ?」
何気に言った須田部長の言葉に内心ぞっとする光義は直ぐに後ろを振り返るが、当然そこには誰もいない。
自分ではアマテル様の姿が確認できないので特に守られているという実感は湧かないが、今現在パニックを起こしている子供達を守る為に、駄目もとでアマテル様の名前を力強く叫ぶ。
『子供達を無情にも死の世界に連れ去ると言われている長身の怪異、九尺様の悪意を止める為にその姿を現せ。こい、暁の神・アマテル様!』
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