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4.遭遇
4.遭遇
恐れおののく子供達に手を伸ばそうとする九尺様を見た光義は駄目もとで暁の神アマテル様を呼ぶが、いくら待っても現れる様子がない。
「ん……あれ、やはりダメか?」
なんの変化もない事に大いに焦る光義に向けて須田部長が手に持つ射影機を使い、光義の背後にいるはずのアマテル様の姿を見る。
「おい、伊勢間、お前の神様、なんだか惚けて辺りをキョロキョロしているぞ。九尺様の存在は認識しているようだが、九尺様を倒せる情報がない以上、まだその姿を体現する事はできないと言った所か」
「姿を見せられないのなら意味ないじゃないですか。これじゃいないのと一緒だ!」
焦りながら言う光義の横を通り過ぎた須田林太郎は勢い良く走ると、子供の一人に白い手を伸ばそうとする九尺様に向けて九字護身法を唱える。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
両手で素早く印を結び林太郎は早九字を唱えるが、九尺様に効き目はないようだ。
「くそ、実家がお寺とはいえ、坊さんの修行をしていない俺が九字護身法を唱えても効き目は薄いか!」
何も出来ずにやきもきする須田林太郎を尻目に、九尺様は逃げる事が出来ずにいる少女の一人にそっと手を伸ばすと、不気味に微笑む。
「ポポーーポポポォォォ、握手、握手、手を繋ごう、縁を結ぼう、一緒に……遠くへ行こうよ、楽しいよ……楽しいよ……幸せの世界、夢の国。ポポーーポポポォォ!」
しつこいほどに握手を求める九尺様の不気味な言葉に最初こそ怯えて泣いていた少女だったが、まるで催眠術にでもかかったかのようにゆっくりと手を伸ばしていく。
「だ、駄目だ。その手を引っ込めるんだ!」
大きな声で叫ぶ光義だったが、思いも虚しくその小学生女子は差し伸べた九尺様の手を掴んでしまう。その瞬間小学生少女の姿はその場から搔き消え、最初からそこにいなかったかのように辺りは静まり返る。
「あ、ああ、洋子ちゃん、洋子ちゃんどこにいるの? 返事をして!」
仲の良かった友達が九尺様に消された事で傍にいたセミロングヘアーの小学生少女が思わず尻餅をつく。
「きゃああぁぁ、来ないで、来ないでぇぇ!」
「ポポーーポポポォォ、次はお前だ……お前だ。迎えに行く、今夜、迎えに行く!」
「ひいぃぃぃぃーー、いや、いやあぁぁぁぁ!」
「そこまでだ!」
逃げ遅れたセミロングヘアーの少女を守る為に、光義と須田部長が立ちふさがる。
「九尺様、お前、たった今、手を繋いだ小学生少女を一体どこにやった?」
少女が目の前で消えた事で内心かなりの恐怖を感じた光義はここで取り乱しては相手の思うつぼだと思い、勇気を見せつける。
(しまった、小学生少女の危機に思わず声を出してしまった。このままでは九尺様に目を付けられてしまう。障りを貰ってしまう!)
震えながらも睨みを利かせる光義に対し九尺様は何かを感じたのか光義のいる方に近づこうとするが、寸前の所でその歩みを止める。
「ポポーーポポ?」
見えない何かに阻まれているのか九尺様は頭を下げると、荒々しく歯ぎしりをする。
「ギシギシギシギシ、ガリガリ!」
光義に意識が向いているのか一瞬隙ができた九尺様に向けて、粗塩入りの水が投げ込まれる。ペットボトルに入ったその塩水が地面に落ちると、九尺様の立つ足元が塩水で水浸しになる。
「どうだ、九尺様、粗塩入りの神水で清めたペットボトル入りの水だ。どうだ、効いただろ!」
粗塩入りの水を投げ付けた須田林太郎は得意げに九尺様を見るが、特になんのダメージも負ってはいない九尺様は涼しい顔で須田林太郎を見る。
「ポポ、ポポポォォォ」
「ちくしょう、効いてねえのか。なら俺の寺から持って来た、真言宗の仏のお札はどうだ!」
木の棒に無数に貼り付けて巻いたお札をバットのように振り回すと、須田林太郎は九尺様に向けてそのバットを叩き込む。だがお札が効いていないのか当然のように九尺様の体を通り抜け、怒涛の攻撃は何度も虚しく空を切ってしまう。
ビュン、シュン、ビュゥゥゥ、バッシュウウ――ン、スカッ!
「馬鹿な、お札付きの木の棒なのに、九尺様を払うどころか、ひるませる事もできないなんて。こいつには仏教のお札は効かないのか?」
「なら神奈さんから貰った神社の、神道の護符ならどうだ!」
須田林太郎に続けとばかりに勢いで動いた伊勢間光義はすかさず神社の護符を出すと、九尺様に向けて捨て身の特攻を掛ける。
だが光義の特攻も虚しく九尺様の体に護符を貼る事はできず、まるで空を切るかのように体を通り抜けてしまう。
「くそ、やはり駄目か。仏教のお札だけではなく神道のお札も効果はなしか。一体何をしたら、この九尺様を止める事ができるんだ?」
九尺様は背後を見せた光義をその手で捕まえようとするが、何かの危険を感じたのか思わず距離を取る。
バッサリ。
(な、なんだ、俺を捕まえるのをやめて、いきなり距離を取ったぞ。まさか向こうもアマテル様を認識し、警戒しているのか?)
「ポポ、ポポポォォォ!」
「とにかく尻餅を付いている君、起き上がって早く家へと逃げるんだ。早くしろ!」
「はい、分かりました、ありがとうございます。高校生のお兄ちゃん!」
光義は怯えて倒れているセミロングヘアーの少女に声を掛けると、少女はあたふたとその場を逃げていく。
「……。」
追いかけ回していた他の子供達はいつの間にか塵尻に逃げ、ターゲットを見失った九尺様は周りに誰もいない事がわかると、まるで氷の上を滑るような動きで、光義と須田部長の前から消えるのだった。
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