7.翌日

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7.翌日

 7.翌日  二日目の夕方、時刻は十六時丁度。須田林太郎部長、高円寺神奈、そして伊勢間光義の三人は、昨日訪れた例の公園に来ていた。  噂の九尺様と遭遇した場所でもある公園内を慎重に見て回る三人はかなり警戒していたが(口にこそ出さないが)もしかしたらまた石井隆少年がここに来ているのではないかと期待し、子供の存在を懸命に探す。  だが石井隆少年は現れず、代わりに公園に来ていたのは、昨日九尺様に「次はお前を迎えに行く」と予告をされていたセミロングヘアーの髪型をした内気そうな少女だった。  セミロングヘアーの少女は何かが入っている紙袋を抱えたまま公園内を走り抜けると直ぐに三人の視界から消えてしまう。  だが今にも泣きそうな顔をしている事からこれはただ事ではないと感じた光義・須田部長・神奈の三人は、静かに少女の後を追う。  ちょっとした木々が生える公園の端に来るとその小学生少女は手に持つ紙袋の中からリンゴやバナナといった果物を幾つか取り出す。どうやら紙袋の中身は何かに捧げるお供え物だったようだ。  そう思ったのはその小学生少女が持参した果物を置いた場所が何かの石の仏像の前だったからだ。  この異様な状況からそう判断した光義は、謎の仏像に向けて震えながら拝むセミロングヘアーの小学生少女に静かに声を掛ける。 「こんにちは、君は確か昨日謎の白いワンピースの女に襲われていた子供達の一人だよね。昨日あんな怖い目にあったばかりなのに、こんな所で一体なにをしているんだ?」  古びた謎の仏像を見つめながらいう光義の言葉に小学生少女はおずおずと挨拶をする。 「あ、昨日のお兄さん、昨日は助けてくれてありがとうございました。これはお供え物です。あの九尺様に許して貰う為の……」 「九尺様に許して貰う、それは一体どういう事ですか。君は九尺様となにか関わりがあるのか。もし良かったら君が知っている事を全て話してはくれないだろうか。なにか力になれるかも」  極めて優しい口調で言葉を掛ける光義に向けて小学生少女は先ずは自分の名前を、ゆっくりとした口調で話し出す。 「私の名前は『日ノ下美緒』、小学三年生です。なんでこの仏像の前にお供え物を持ってきたかというと、ここが全ての元凶であり始まりだからです」 「全ての元凶、この古びた仏像がある場所がですか。一体ここで何があったんですか?」 「今から一か月前、サッカーをして遊ぼうとしていた男子の子供達がこの仏像の横に置いてある不気味な人形を……いいえフィギュアを見つけたんです。そのフィギュアは白いワンピースを着た長身の女性で、髪は長く白い麦わら帽子を被っていたそうです」 「そうですって、君はそのフィギュアを見てはいないのか」 「はい、その日私は塾に行っていましたから、見てはいません。でもその場にいた知り合いの男の子に、その話を聞きました」 「それで、子供達はそのフィギュアをその後一体どうしたんだ?」 「一人のヤンチャな男の子が振り回して遊んでいたらしいですが、そこに見知らぬおばさんがやって来て、そのフィギュアを見つけるなり子供に向けて怒鳴り散らしたかと思うと、物凄い勢いでフィギュアを奪っていったとの話です」 「不気味なフィギュアに、それを奪って行った謎のおばさんか。だがその件と君がこの仏像にお供え物をする意味が分からないんだが?」  意味が分からないと疑問を投げかける光義に、日ノ下美緒が更に話を続ける。 「九尺様の呪いに感染してしまったからです」 「九尺様の呪い?」 「どうやらこの話を聞くと、あのフィギュアと縁が出来て、九尺様が現れるようになるみたいです」 「なぜその白いワンピースを着た女性が九尺様だと思うんだい」 「だって、その不気味なフィギュアを振り回して遊んでいた男の子がそのフィギュアの事九尺様、九尺様と叫んでいたそうだから、みんなにもその名前が知れ渡ったらしいです。そして、その男の子が直ぐに公園から姿を消して行方不明になったのが大きいです。なにせその男の子は、フィギュアそっくりの白いワンピースを着た謎の女性に連れ攫われて行く所を他の子供達がみんな見ていたらしいですから」 「なるほど、子供達はこの仏像の前に置かれていたフィギュアを勝手に持ち出しふざけて遊んでいたが、突如現れた謎のおばさんにそのフィギュアを取られたんだな。その直ぐ後に九尺様が現れて、フィギュアを持って遊んでいたその男の子を何処かに連れ去ったと、そう言う事でいいのかな。そしてその一件を目撃した子供達から話を聴いた日ノ下美緒にも怪異に関わる異変が起きてしまったと言う事か」 「そう言う事です。家の中に入っては来ないですが、その話を聞いて以来九尺様を見るようになりました。初めはただ遠くでこちらを見ているだけでしたが、日に日に段々近づいてきて、昨日は友達の洋子ちゃんと一緒に公園の前を通りかかったら、いきなり現れた九尺様に襲われてしまいました」 「ていうか、話を聞こうが聴きまいが、その呪いを受けた人に関わったら、否応なしに巻き込まれると言う事か。昨日他の子供達も逃げていたのがその証拠だ。そして呪いの話を聞いていない俺達が九尺様と初めて遭遇できたのも、九尺様と縁を作っている、そのフィギュアを見た、或いはその話を聞いた子供達と会ってしまったからだ。だがそんな怖い目に遭っているにも関わらず、なぜ君はこの公園内にある仏像にわざわざお供え物を持って来ているんだ。また九尺様に襲われるかも知れないのに?」 「夢を見たんです。友達の話に出ていた白いワンピースを着た長身の女性が夢に現れて私に言うんです。ポポ、ポポポ、手を繋いで……手を繋いで……頂戴、頂戴って。だから私、考えたんです。もしかしたら九尺様は元の場所に、あの公園内の隅にある仏像の横に戻して欲しいんじゃないかって。でも九尺様の姿を形どっているフィギュアは謎のおばさんに何処かに持っていかれたままだし、どうする事もできないから、せめて家にある果物をお供えして、九尺様に謝ろうと思ったの、九尺様ごめんなさいって」 「いや君は何も悪くはない、ただ友達からその話を聞いて呪いを貰ってしまっただけだ。さすがに理不尽だし不可抗力だ。どうやら持ち逃げした謎のおばさんと九尺様の姿を模した不気味なフィギュアに全ての答えがあるみたいだが、日ノ下美緒、君は今すぐ家に帰ってこの一件が片付くまでできるだけ外には出ないようにしてくれ。九尺様の件は俺達がなんとかしてみせるから」 「両親や学校の先生、それに警察も、この話を信じてはくれないのに、九尺様の事をお兄さん達は信じてくれるというの」 「ああ、信じるよ。俺達もここ最近怪しげな神や妖怪の類と関わっているせいで、怪異との遭遇率が妙に高いからな」 「お兄さん……」 「取りあえずはフィギュアを持ち去ったという謎のおばさんの所在を探ってみるか」  不安げな顔をする日ノ下美緒に向けて安心めいた言葉を送る光義は後ろに控えている二人の励ましにも期待するが、後ろで古びた仏像を見ていた須田部長と神奈の二人は眉間にシワを寄せるとすぐさま顔色を変える。 「これってあれだよな……」 「ええ、これってあれですよね……」 「なんだよ、勿体ぶらずに言ってくださいよ。気になるじゃないですか」 「この仏像が形作っている姿と、ここにあったはずの九尺様のフィギュアが残していった残り香から感じた事なんだけど、この九尺様って、おそらく八尺様のような妖怪の類のような物じゃ絶対にないわね」 「妖怪じゃないだって。じゃ九尺様って一体何者なんだよ?」 「おそらくは鬼の類の物、神の位に係る鬼女という事になるわ」 「九尺様の正体が鬼だというのか。でも頭に角なんか生えていたか?」 「その姿はどう見ても八尺様に似ていたし、帽子を被っていたらしいから分からなかったのかも」  九尺様の真の正体を予測する高円寺神奈の言葉に付属を咥えるかのように須田林太郎部長が更に分かりやすく話す。 「この鬼のような鬼女の仏像を見ても分からないか。この仏像は鬼子母神の仏像だ。と言う事は、同じ波動を持つその九尺様の力は、その鬼子母神の力を受け継いでいると言う事だ」 「じゃなにか、仏教の女神の一人でもあり、過去は人を喰らう鬼だったとされる、あの鬼子母神の力を受け継いでいる夜叉、つまりは鬼だと言う事か。もしもその仮説が合っているのなら九尺様を退かす事などできないかも知れない。なにせ相手は神の力を有した鬼女なのだからな!」  九尺様の正体が神の力を持つ鬼かも知れない事を知った伊勢間光義は、アマテル様と同格かも知れない九尺様の脅威に物凄い不安を覚える。 「と、取りあえずは行こうか。九尺様のフィギュアを持ち去ったという、怪しげな謎のおばさんを探しに」
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