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3.神明神社の巫女
3.神明神社の巫女
「浩一、加也子、元太、無事か!」
高校につくなり、隣にあるクラスへ飛び込んで行った伊勢間光義は、昨夜に同じく廃寺に行った三人の元へと足を運ぶ。
血相を変えて現れた光義の鬼気迫る態度にあっけに取られる三人だったが、まずは落ち着けとばかりに明るく返事を返す。
「なんだよ、光義。朝早くから騒がしいな。無事ってどういう事だよ?」
「どういう事って、昨夜お前らと一緒に例の坊さんの幽霊が出るとされる、噂の廃寺に行ったじゃないか」
心配しながら話す光義の真剣な顔に、浩一は不思議そうに言葉を返す。
「肝試しだって……いいや昨夜はどこにも行ってねえよ。そうだよな、加也子、元太」
「ええ、私も昨夜は家にいたし、あのいわくつきの廃寺になんか、いくわけないじゃない」
「ああ、俺も家にいたな。大体隣りのクラスでもあるお前をわざわざ誘って夜遅くに廃寺なんかには行かねえよ。光義お前、頭は大丈夫か」
三人の思いもしない否定的な発言に昨夜の記憶のある光義は訳が分からず軽く混乱する。
「なにを言っている、昨夜は確かに四人であの噂の廃寺に肝試しに行っただろ。それに肝試しに誘ったのは、他ならぬお前らじゃないか!」
「いいや、誘ってはいないよ、それに廃寺に行ってもいないしな。大体俺たち三人がこぞって廃寺に行っていないと言ってんだから、お前が噓を言っているか、頭が可笑しくなっているんじゃないのか」
「いや、俺は確かにお前たちに誘われて、昨夜は廃寺に行ったよ。そこでお前たちは首切り坊主に襲われて……」
「首切り坊主ってなんだよ。光義お前、ネットの5チャンネルの都市伝説の見過ぎで、現実と虚構の区別ができなくなっているんじゃないのか。俺たちと肝試しに行ったとか言っているし、一度精神科にでも行ってちゃんと調べて来いよ」
「でも確かに俺はお前らと肝試しに行ったんだ。そこでお前らは首切り坊主に襲われて、生首になって……」
「空想や妄想もここまでくるともう病気だ。お前は幻覚を見ているんだよ。まさか危ないクスリでもやってるんじゃないだろうな?」
本当に記憶がないのか浩一は昨夜に行ったはずの廃寺への記憶を完全に否定するが、光義は自分の記憶違いではない事を改めてはっきりと確信する。なぜなら否定する三人の首にもまた、光義と同じように赤い横線の跡がくっきりと見えていたからだ。
なぜ記憶がないのかはわからないが、何かしらの呪いを受けていることを心配した光義は、それならと窓際の一番奥に座る黒髪ロングヘアーの女子生徒を指差し、彼女に見てもらってはどうかと提案する。
「俺の言うことが信用できないんなら、彼女に見て貰おうぜ。それならいいだろ!」
何気に言った光義の言葉に、反応したのは目を輝かせた元太である。なぜなら元太は光義が指名した黒髪ロングの女子生徒に好意を持っているらしく話をするきっかけをいつも探っていたのだ。
確かに彼女は他の女子生徒達と違いなにかミステリアスで近寄りがたい神秘的な物を感じる。体は細身で容姿も美しく、純和風的な美少女だが、いつも一人でいるせいかどこか浮いている。
男女共に上手くやっており、別に仲間外れにされている訳ではないのだが、いつも互に遠慮し距離を取っている。
それはなぜか……それは彼女の実家は代々有名な古い神明神社を継いでおり、父親は神主、そして娘である彼女は必然的に巫女をしているのだ。
だがそれだけでは彼女が自分から人を遠ざけ、そんな彼女を気味悪がって皆が距離を置く理由にはならない。
なにを隠そう彼女には誰もが認める強い霊力が備わっているからだ。その霊力は本物で相手の背後にいる守護霊と会話をし、物事をズバズバといい当てるその確率の高さは相手を驚愕させるには充分な力だ。そんな驚愕の霊力を持つ彼女に呪いが本物かを見てもらう為に光義は力を借りようと言うのだ。
彼女の名は高円寺神奈、一年C組の生徒で、清楚で落ち着いた雰囲気を持つ、霊能者美少女だ。
そんな彼女の元へ、呪いの是非を聞こうと歩き出す伊勢間光義と、これを機に何とか仲良くなるきっかけを掴もうと迫る元太が近づく。
椅子に座りながら本を読む高円寺神奈に先に話しかけたのは、緊張した面持ちで笑顔を作る同じクラスメイトの元太だ。
元太は彼女の姿を眼に焼き付けるかのようにガン見すると、軽快に声をかける。
「神奈さん、ちょっと話があるんだけど聞いてもいいかな」
「はい、なんでしょうか?」
普段は話したこともない同じクラスの元太に話しかけられ困惑する高円寺神奈は読書を止め、目線を合わせる。
「実は一年B組の光義の奴が、昨夜俺たちと共に隣り町にある廃寺に行ったと言い張っているんだけど、俺達は廃寺なんかに行った覚えはないし、さすがに話が嚙み合わないから、ちょっと見て貰おうかと思って」
「見るって、なにをですか?」
「勿論幽霊とかだよ。もしかしたら何らかの心霊現象かも知れないからちょっと見てもらおうかと思って神奈さんに声をかけたんだよ。光義になにか霊的な物でも取り付いてやいないかを。もしなにか取り付いているのなら神奈さんの神社で払ってもらおうかと思って!」
「元太が話すが否や目を細めた高円寺神奈は改めて持参してある眼鏡をかけ直すと、酷く驚いたのか、勢い良く椅子から立ち上がる。
「なんなのそれ? それってただ単に悪霊から恨みを貰ったとか、幽霊に祟られたとか、そんなレベルの物じゃないわね。おそらく邪悪な妖怪か祟り神様の類のような物だとは思うけど、その正体までは私にはわからないわ。それに通常のお祓いではどうにもできないかも。あなた達、そんな強い呪いを一体どこで貰って来たの、早く何とかしないと命に関わるわ!」
真剣な顔で四人の首元に残る赤い横線を見た高円寺神奈は心配そうに警告するが、その言葉に青ざめる光義とは対照的に、元太・浩一・加也子・の三人はありえないとばかりに楽観的に笑う。
「ハハハハハ、高円寺さんも冗談がキツイな。廃寺に行った光義はともかく、俺と浩一、そして加也子は廃寺には行っていない。だから呪いなんて受けているはずはないんだ
。そうだろう、みんな!」
「ああ、そうだ。昨夜、俺は廃寺には行ってはいない」
「私もそうよ、きっと光義くんの勘違いよ」
元太に同意を求められた浩一と佳代子は透かさず援護をするが、光義は堪らず加也子に詰め寄る。
「でも首に残されている赤い横線は、朝からの物だろ、この横線がなによりの証拠じゃないのか!」
「いや、その話、さすがに無理があり過ぎるわ。なんでそれだけで呪いに繋がるのよ。それに、この首にある赤い線がなにかは知らないけど、きっと虫に刺されてかぶれただけかも知れないじゃない。オイラックスクリーム軟膏でも塗っておけばきっと治るわ。でもほんと嫌になっちゃう。布団は週に一回は必ず天日干しにしているのに、首がかぶれるだなんて。痕が残らないといいけど」
昨夜の事を完全否定する三人の言葉に光義はもはや言い返す言葉を思いつかない。
言い返せないでいる光義を何気に見ていた元太だったが、話を途切れさせてはいけないとばかりに高円寺神奈に話しかける。
「そんな事よりさ、高円寺さん、今日授業が終わったら俺たちと町に遊びに行こうよ。最近できたカラオケ屋で俺達、遊ぶつもりだからさ、良かったら付き合ってよ。女性の佳也子もいるし来やすいだろ」
「いや、私……そういうのはちょっと……それに今日は家の仕事があるので」
ここぞとばかりに誘う元太の勢いに押されそうになる神奈だったが、理由をつけ何とか断る。そんな様子を見ていた伊勢間光義はさすがにあからさま過ぎるだろうと思いつつも元太の恋路を密かに応援したい気持ちになるが、ふとあることに気付く。
舞い上がりながらも笑顔で話す元太は何を思ったのか、カッターナイフをポケットから取り出していたからだ。
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