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13.休息、ファミレスにて
13.休息、ファミレスにて
時刻は深夜の三時丁度、伊勢間光義と小学生女子の日ノ下美緒の二人は二十四時間営業のファミレスで仕方なく時間を潰す。
九尺様の活動が鈍る朝が来るまでの間、注文した料理を食べた後は飲み放題のドリンクバーでひたすら時間を潰す二人だったが、店員から変な目で見られた事で、帰って来ない親を待つ兄妹という設定で大袈裟な子芝居をする。
まかり間違っても少女を連れ去る誘拐犯だと思われたくはなかったからだ。
「い、妹よ、ハンバーグ定食は美味しいか」
「うん、お兄ちゃん、おごってくれてありがとう」
「いいって事よ、父と母が帰るまで妹の面倒を見ろと言われているからな。これくらいは当然さ。それにしても連絡遅いな。一体父と母は俺たちをいつまでファミレスで待たせるつもりだ。ほんといい迷惑だぜ!」
「本当だね、お兄ちゃん!」
わざとらしく大きな声で話す二人は各自飲み物を飲んでいたが、伊勢間光義は徐にポケットからSLーL100ラミネートフィルムを出すと歯痒そうに溜息をつく。
「フイルムか。メモリーカードとかのデータでなら、無人機の写真現像機でプリントアウトができるんだが、口惜しいぜ」
「現像するなら朝が来るのを待って、写真屋さんに行くしかないですね」
「そんな事よりも、警察に行って家からいなくなった両親の事を話さなくて本当にいいのか。警察署までなら送っていくというのに」
「多分警察に頼んでもお父さんとお母さんは戻っては来ない、そうでしょ」
「そ、それは……」
「二人がいなくなったのはあの九尺様が関わっているからだし、あいつをどうにかしない限りは消された両親は戻っては来ない。そして当然消しそこなった私もまた狙われるわ」
「確かにそうだが、俺と一緒にいても意味がないだろ」
「いいえ、意味ならあるわ。いくら九尺様の事を言っても大人は絶対信じてはくれないでしょうし、消された両親を助け出す事は皆無だと思う。でもお兄さんは違うわよね。少なくとも九尺様の事を知っているし、それどころか九尺様に襲われていた私を助けてもくれた。そしてあなたは九尺様に秘められた謎を暴く為に今ここにいる、そうでしょ」
「確かにそうだが」
「なら、両親を消され、九尺様に今も狙われている私は、理解あるお兄さんの傍にいた方が幾分かは安全と言う事よね。それにお兄さんは九尺様に迫る証拠の品を持っているみたいだから、お父さんとお母さんを助ける為にも、お兄さんについていくつもりよ」
「いや、ついて来られても正直困るんだけどな」
(こいつ、本当に小学三年生かよ。考え方がもう大人なんだが……)
日ノ下美緒の言動に、本気でビビる光義。
「とにかく、このまま家に帰ってもお父さんとお母さんは帰っては来ないんだから、お兄さんには期待しているわ。必ずいなくなった人達の行方を掴み、ヒントを探り当ててくれるって」
「それにはまず、外で待ち構えている、九尺様をどうにかしないとな」
「えっ?」
外に視線を向けながら言う伊勢間光義の言葉に日ノ下美緒は思わず振り向く。窓ガラスに映る二人の視線の先にいたのは、外から窓ガラスを覗き込む九尺様の不気味な姿だった。
「ポポーーポポ、ポポーーポポ、逃がさない、連れていく、夢の国、幸せの世界、ポポポ」
「ひっいぃぃぃ!」
「たく、しつこいな、まだ追って来るのかよ。だがこのファミレスには入っては来れないようだな」
「本当に入って来ないの、私の家には入ってきたのに」
光義と美緒は外で待ち構えている九尺様を見つめると、その言動に注目する。
どうやら障りを受けた人以外は見えないらしく、店で働く店員はおろか外を歩く人間も九尺様の存在を認識できない。
その証拠に外を歩く人々は九尺様にぶつかっても体を素通りし、全く気付く事は無い。
そんな主より命ぜられた仕事をきっちりとこなす九尺様はファミレス内に入って来る力はないのか暫くは外でボーと突っ立っていたが、日が昇ると時間切れとばかりにその場から立ち去っていく。
そうまるで闇夜を照らす暖かな光から逃げるかのように。
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