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15.木内さえの日記
15.木内さえの日記
「おっ、どうやらこのノートは日記のようだな。一年間分の日記が毎日休みなく書かれてある。何々、例えば今日から三か月前の日記は、と」
光義は、三か月前に木内さえが書いたと思われる文章を読み上げる。
「三か月前、○月○○日〇曜日。ゴミ捨て場から勿体ない品を集めていたら、今日も心無いクソガキどもに嘲笑され石を投げられる。こちらも負けずに大声を上げ怒って見せるが子供達には効果がないようだ。追いかけたくとも腰痛のせいか腰が痛く追いつく事ができない。だから無邪気な子供は、小学生は嫌いなんだ」
「う~ん、心無い子供が挑発して来て、それに激怒しているのか。喧嘩両成敗とは言え、なんだか可哀想だな」
光義は木内さえに少しだけ同情するとページを飛ばし、二週間前のページを見る。
「二週間前、〇月分○○日〇曜日。今日は自分にだけではなく家にも石を投げられた。あのクソガキどももう我慢ができない。なので昼にあのクソガキどもが通う小学校に電話をかけ抗議の電話を入れた。だが逆に精神病院に通院している事を盾に精神異常者扱いされ、子供達には近づくなと小学校側や警察からきつく注意された。私は何も悪くないのに、悪いのは全てあの心無い小学生達なのに、なぜ私ばかり被害に遭わないといけないの。あのクソガキども、全てあいつらのせいだ。いつか全ての子供達に復讐してやる!」
「この二週間でなんだかかなりヤバい事になってきているな。それだけ無邪気な子供達の悪意に追い込まれて、精神状態が異常をきたしていると言う事か。なら今度は一か月前のページを見てみるか」
光義は更にページを数十枚めくると、一か月前のページを読み上げる。
「一か月前、○月○○日〇曜日。今日はたまに家に来るケアマネージャーの職員から老人ホームへの正式な入居を提案された。ディサービスには週に三回ほど出向いて体力つくりをしているが、入居となると話は別だ。入居したらこの家に帰って来ることはもうできないし、年金や貯金もケアマネージャーに管理されて自由に使う事ができなくなる恐れがあるからだ。おそらくは私の体力や精神疾患を考慮して早く老人ホームにぶち込みたいようだが、そうはいく物ですか。私はお宝が詰まったこの家からは死んでもでない事を世間に分からせてやる。そんな事を考えていたのだが、疲弊する私の前に古びた着物を着た変な老人がいきなり現れ……」
その急激な展開の流れに光義はノートに書かれている文章を食い入るように見る。
「まるで諭すようにある事を言う。あなたはなにも我慢しなくてもいい、お前が正しい、悪くはない、悪いのは全てあの心無い言動をぶつけて来る無垢な子供達なのだからなと。あの威厳に満ちた老人は私の行いをはっきりと肯定してくれた。そうあの老人こそが私の心を理解してくれる真の指導者だ。私の心の救い主だ。初めて会っただけなのにそう感じた私は、その老人から一つの不気味な人形を貰う事になる。それが九尺様だ」
「一か月前に会った謎の老人、一体そいつは何者なんだ?いいや違うな、そんな怪しげなご神体のフィギュアを持っていると言う事は、その老人が神々の宿敵とのいうべき邪神様でまず間違いはないだろう」
文面からそう結論付けた光義は最後に書かれた最新のページをめくって目を通す。
「昨日の日記、○月○○日〇曜日。一か月前に謎の老人から手に入れた九尺様の力で、私を馬鹿にした子供達を六人ほどあの世に消し去る事に成功した。だが今日の夜はなんだか可笑しな輩がかかわって来たせいでせっかく追い詰めた残りの子供達を取り逃がしてしまった。九尺様の力の源は鬼子母神像からなる力なので、週に三回は仏像の前で力のチャージは必要だ。だが、その事に気づいた可笑しな高校生二人が私の前に立ちはだかり邪魔をして来たが、九尺様の力を借りどうにか返り討ちにする事ができた。本当に危なかった。たまに九尺様は私から離れて数時間ほど勝手にいなくなる時があるので、今後は注意が必要だ」
「やはり高円寺神奈と須田林太郎部長は九尺様に消されていたか。九尺様をどうにかできたら本当にいなくなった人達を救出できるんだろうか?」
いなくなった二人の安否を心配しながら光義は最後の文章を読む。
「二か月前、日ノ下美緒の両親が私の文句を言ってきた。ゴミ捨て場に落ちていた壊れたラジカセを自転車の籠に入れたのを見ていたとの事だ。日ノ下家の言い分は、自分達が捨てたラジカセを勝手に拾う事は許されないし窃盗と同じだとの事だ。どうせ捨てるものならリサイクルの観点から貰っても別にいいはずなのだが、底辺だと見下される私には何を言っても許されるとこの両親は思っているようだ。その恨みもあって、今夜急遽日ノ下亭を襲撃する。あそこには一人娘の日ノ下美緒もいるらしいから、ついでにあの世に消し去ったら、この上なく清々しい気分になるはずだ」
「これで、終わりか。あ、裏面のページにも文章があった。何々?」
「日ノ下家の両親は消し去ったが、なぜか娘の日ノ下美緒は消えてはいないようだ。せっかく今日は力をチャージして他人の家の中に入れるようにして置いたはずなのに取り逃がすだなんて、未だに信じられない。それに共に行動をしているあの高校生は一体なんだ?まるで見えない何かに守られているかのようだ。だが焦る事は無い、鬼子母神の力を持つ九尺様は無敵だ。あの二人は次の夜に、必ずあの世に送り届けてやる。どこに逃げようとも必ずだ!」
逆恨みではあるが、その異常なほどの殺意の強さに伊勢間光義は戦慄を覚え、日ノ下美緒は両親が消された訳を泣きながらも理解する。
「そんな身勝手な理由で、お父さんとお母さんは九尺様に消されたの、ひどい、酷すぎる」
「木内さえ、九尺様なんて呪物を一番渡してはいけない人物だろ。危険だ、極めて危険な人物だ!」
日記に書かれてある脅威に青ざめる伊勢間光義と日ノ下美緒だったが、そんな二人に見えない恐怖が迫りくる。
「ポポーーポポ、ポポーーポポ、行こう、行こうよ、夢の国、楽しい所、幸せの世界、手を繋いで、手を繋いで」
「この不気味な笑い声は……来た、九尺様だあぁぁ!」
「きゃあぁぁ、いやあぁぁぁぁ!」
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