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17.勝負の時
17.勝負の時
クネクネと体をくねらせながら迫る九尺様の接近に伊勢間光義は完全にアマテル様の力に縋ろうとするが、後ろで怯えて泣いていたはずの日ノ下美緒が落ち着き払った声で檄を飛ばす。
「我の氏子にして神憑きの資格を持つ選ばれし子よ、何を情けない事を言っているのですか。あなたが頭を使って、考えて、行動して、勇気を振り絞ってこの難局を打破すのです」
「その口調、その感じは、もしかしてアマテル様か。もしかしてまた妹の体を乗っ取った時のように今度は日ノ下美緒の意識と体を支配したのか」
「一時的ですがね、どうにか干渉する事が出来ました。それで光義、迫りくる九尺様の足をまず止めるには一体どうしたらいいと思いますか。逃げ場のないこの狭い部屋の中では力押しで攻められたら捕まってしまいますよ」
この土壇場で急遽言われたアマテル様からの質問に考えるゆとりのない伊勢間光義は危機回避本能に従うがままに、ドアの前の壁に高く積み上げられているゴミ袋の山を一気に崩しにかかる。
「ああ面倒くさい、こうすれば数秒間くらい足止めにはなるだろ!」
ゴミの山が崩れた事で部屋の中に入れなくなった九尺様は長身の長い体をくねらせるとゴミの壁の隙間を掻き分けながら少しずつ部屋の中へと入って来る。
霊体なのでもしかしたら障害物を無視して部屋の中に入って来るのではとも思ったが、この現世に体現した際には、ある程度は人間が定めたルールに従って動いているようなので障害物に阻まれる結果になっているようだ。
時間が稼げている結果に光義はかなりホッとするが、続けざまにアマテル様からの指示が飛ぶ。
「何を安心しているのですか。日の光を閉ざしているゴミの山を退けて、外へ出られる脱出通路を確保するのです」
「つまりは窓ガラスをへし割れと言う事だな、了解だぜ!」
アマテル様からの助言でゴミの山を豪快に崩すと、窓ガラスを叩き割るのと同時に二人は素早く外へと出る。
パリ――ン、ガシャン、ガラガラ!
窓ガラスを突き破り外へと出た伊勢間光義と日ノ下美緒の二人だったが、外の有り得ない異変に光義の心臓の鼓動は早くなる。
「可笑しい、一階の窓から外に出たはずなのに、外は暗いままだ。ていうか今何時なんだ。この家に入ったのは昼の十二時くらいだから、計算が合わないんだが?」
説明を求める光義の視線に、日ノ下美緒に憑依するアマテル様は今起きている状況を解説する。
「さすがは鬼神夜叉の力を持つ九尺様です。どうやら九尺様は次元や時空を操る力……つまりは固有結界を作れるようです」
「固有結界だってぇぇ。漫画やアニメの世界じゃあるまいし、ちょっと万能過ぎじゃないか」
「それだけ九尺様が持つ鬼子母神の力が超強力だと言う事です」
「アマテル様、九尺様に繋がる弱点となる概念は作ったんだから、勝てる、勝てるんだよな?」
「まあ、五分五分といった所でしょうか」
「な!」
何気に行ったアマテル様の言葉に内心安心しきっていた伊勢間光義は思わず絶句する。
「おそらくこの闇の世界は九尺様が作り上げている世界ですから、彼女もかなりの神力を消費しているはず。それだけ私達を、彼女が唱える幸せの世界には行かせたくはないのだと思います」
「幸せの世界か。俺たちの前に現れる時、九尺様はいつもそんな事を言っていたな。だがそこにいなくなった人達がいるんだろ。なら是が非でも行かないといけないな、その幸せの世界に……」
何かを察したかのように静かに呟く伊勢間光義の前に、ゴミの山から抜け出し、割れた窓からぬるりと現れた九尺様がその姿を現す。
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