18.戦いの行方

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18.戦いの行方

 18.戦いの行方  二人を見つめる九尺様は頭上から不気味な笑みを溢すと、いつもの台詞を高らかに言う。 「ポポーーポポーー繋いで、お願い、手を繋いで……握手をしようよ……寂しくない所……幸せの世界、夢の国」 「あ、アマテル様!」  九尺様は長身から繰り出す異様に長い腕を伸ばすと目の前で警戒している伊勢間光義に向けて走りよって来る。その勢いは強く、この一戦に全てを注ぎ込むかのような迫力で掴みかかろうとするが、アマテル様もまた自分の体を盾にし、光の壁の力で宿主たる伊勢間光義を守る。  その力は拮抗し数秒間ほど見えない力で押し合っているようにも見えたが、力負けしたのか、いきなりアマテル様の体が豪快に後ろへと吹き飛ぶ。  ドッカアァァァーーン、ガラガラ、バッコオォォォォン!  吹き飛んだ勢いが強かったのか伊勢間光義の後ろにある隣の家の壁は大きく破損し、土煙が上がるその瓦礫の中には痛々しくも横たわるアマテル様の姿が目に映る。  それと同時に憑依が途切れた意識のない日ノ下美緒の体は糸が切れた人形のように地面へと倒れ、その場に残されたのは焦りまくる伊勢間光義ただ一人という事になる。 (アマテル様が力負けしてしまった。まずい、これはかなり不味いぞ。神様であるアマテル様が死ぬ事はまずない事だが、俺達の敗北条件は、アマテル様が力を使い切り、力を失った所をご神体を破壊されるか。アマテル様がこの世に体現できるもう一つの条件でもある神憑きたる俺が殺されるかだ)  自分を守ってくれるはずの守護者が後ろに後退してしまった事で隙が出来てしまった伊勢間光義は絶体絶命のピンチに陥るが、目の前で仁王立ちをする九尺様に向けて囁くように言う。 「九尺様、本当にこれでいいのか。このまま行ったら遅かれ早かれ、あんたが抱いていた世界でもある……『幸せの世界』の存在がばれて、あんたの宿主たる木内さえに全てが壊されてしまうぞ」  伊勢間光義が告げる言葉の意味を理解した九尺様は伸ばした両手を思わず止めてしまうが、割れた窓ガラスの部屋から外を見る木内さえは鬼の形相で九尺様を激怒する。 「何をやっているの、早くその邪魔者を消し去って仕舞いなさい。勿論そこにいる日ノ下美緒も一緒にね」 「木内さえさん、確かに心無い子供達や軽視する世間の大人達に迫害を受けてきたのかも知れないが、日ノ下美緒のように全く関係ない子供達もいたはずだ。そんな罪のない子供達にもあなたは危害を加えると言うのか?」 「ええ、全ての子供達は皆同罪よ、連帯責任よ。この私を馬鹿にしたんだから当然の報いよね。この町にいる子供達を全て消し去って、私を馬鹿にし迫害した愚かな大人達に絶望と悲しみを届けてやるのよ。ハハハハハ、苦しめ。子供達を亡くした悲しみに皆打ち震えろおぉぉぉぉぉ!」  邪悪に満ちた形相で狂わんばかりに叫ぶ木内さえの醜態に恐怖よりも怒りを覚えた伊勢間光義はその視線を再び九尺様に向ける。すると九尺様は押し黙り、何かを考えているようだ。 「九尺様……?」  一向に動く気配がない九尺様の煮え切れない態度に業を煮やした木内さえは怒りの沸騰点が頂点に達したのか大きな声で罵声を浴びせるが、体勢を立て直す隙ができた事で瓦礫の中から復活したアマテル様が腰に下げている日本刀ではなく、いつの間にか手に持っている一振りの縦に長い長剣を徐に構える。 「なんだ、その長剣は、見た事がないぞ?」  不思議がる伊勢間光義のスマートフォンに(大音量と共に)今度はメールが届く。 「何々、この剣の名は日本神話に出て来る十挙剣で、別名・天羽々斬とも言います。古事記では須佐之男命が地上に降りた時に八岐大蛇を退治した剣として有名です」 「十挙剣……別名・天羽々斬だってぇぇ。天叢雲剣……別名草薙剣じゃないのか」 「そんなメジャーな剣は持ってはいません。この剣だって家にいる妹の伊勢間紀保子を操って、五助爺さんが予め作り置きしていた十挙剣をご神体に装備させた物です。この剣は三週間前に神奈さん宅の神明神社で、予め粗塩入りの神水で清めた魔を払う剣です。九尺様の力を奪うだけの力はありますが、祈りと清めが足りないせいか一振りしたら砕けてしまうかも知れないので、一撃の元に倒さないといけません……だとうぅぅ。つまりは剣に込められている力は超強力だが、九尺様の力を奪える余力が一回分しかないから、一撃の元に倒さないと次はない、という事か。中々に難儀な話だ」  スマートフォンを見ながらしみじみと呟く伊勢間光義は、光の剣と化した十挙剣を構えるアマテル様と両手を前に突き出しながら迎え撃とうとする九尺様との決着を見守る。 「「……。」」  数秒間の沈黙の後、アマテル様と九尺様は同時に動き、ぶつかり合う二つの力はまるで光と影が鬩ぎ合うかのように大きくスパークする。  その力の影響で拮抗する力の磁場は徐々に広がり、その場にいる全ての人を飲み込んで行くのだった。
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