4.戦慄

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4.戦慄

 4.戦慄 (カッターナイフだってぇ。話の途中でカッターナイフなんかを取り出して、元太は一体何をするつもりなんだ?)  疑問に思いながらも不自然な行動を見守る光義の目の前で、元太は笑顔を崩す事なく話を続ける。 「神奈さんにも是非来て欲しいな。俺達の仲間に、友達になってほしい。そう同じ仲間……新たな生贄……贄は一人でも多くいた方がいいだろ」  いきなり出た元太の意味不明な言葉に、話を聞いていた神奈だけではなく、その場にいた、光義・浩一・加也子も驚いた顔で元太の方を見る。 「だってそうだろ、首切り坊主は俺達の首を、命を、あの世に持っていきたいと思っているんだから。喰らいたいと思っているんだから」  焦点の定まらない目でいきなりそう言うと元太は、首切り坊主が歌っていた民謡をいきなり歌い出す。 『嘆きの夜に歩ければ、首切り坊主がやって来る。恨みを込めて願わくば、首切り坊主が鎌を出す。恐怖と不安にかられれば、首切り坊主に悟られる。姿を隠し逃げれども、首切り坊主は追ってくる。何処へ逃げども歩み寄り、呪いの成就に乱舞する。首切り坊主がやって来る。幾度も幾度も現れて、その首よこせとやって来る。命をよこせとやって来る!』 「元太、なにを言っているんだ、悪い冗談はよせよ!」 「そうよ、なにふざけてるのよ。まさかそんな悪ふざけで神奈さんの気を引こうと考えているんじゃないでしょうね」  元太が見せるあまりの不気味さに浩一と加也子は少し怒り気味に元太を諌めるが、二人の静止を気にすることなく元太は更に声を強める。 『来るぞ、見ているぞ、首切り坊主はすぐ近くにいるぞ。首切り坊主に首を切られた者は、だれも逃げられない。そう俺たちはみんな死ぬんだあぁぁぁぁぁぁ!』 「元太、お前……」 「死ぬんだ、みんな首を刈られて殺されるんだぁぁぁ。死ね、死ね、みんな死ねぇぇ、ハハハハハハハハハハハァァァァァ!」  元太のただならぬ絶叫と狂気に、教室にいたクラスの生徒たちは皆何事かと元太に視線を向ける。  クラス全員の注目を集める中、元太はまるで狂ったかのようにいきなり笑い出すが、その光景を黙って見ていた高円寺神奈が真剣な顔でいきなり叫ぶ。 「やめなさい、元太くん……いいえ、首切り坊主だったかしら、とにかく彼から離れなさい!」  高円寺神奈の言葉の意味をなんとなく理解した伊勢間光義は、神奈が椅子から立ち上がるのと同時に元太の元に駆け寄ろうとしたが、まるで金縛りにかかったかのように二人はその場で固まってしまう。  ピッキィィーーン! (くそぉぉ、体が動かない。この感じ、昨夜と同じか!)  昨夜に、首切り坊主と遭遇した時の事を思い出した伊勢間光義は直ぐに元太に視線を向けるが、その瞬間、光義の顔に生温かい何かの液体が突如降りかかる。  プシュケゥゥ、ビチョーービチュ!  顔だけではなく両手にも降り注いだその液体を見た伊勢間光義は、すぐさま元太の方を見る。その目に映し出されていたのは首にカッターナイフを深々と突き刺す元太の衝撃的な光景だった。  血は真っ赤に飛び散り、首から大量の血を流す元太は自分でも何が起こったのかが分からないのか、息苦しくせき込みながらもあっけに取られる。  だが事の重大さに気づいたのか元太は湧き上がる恐怖と痛みに発狂すると再び血反吐を吐きその場に倒れる。 「なんで、俺、首を切っているんだ。ゲッホ、ゲッホーー、痛い、苦しい、助けて、助けてぇぇぇ。ゲッホ、ゲッホォォォーーガハガハ、ゲッホォォ!」  その衝撃的な光景は当然その場にいた神奈・浩一・加也子の目にも入ってはいたがあまりの出来事に恐怖で固まる。そんな緊迫を打ち破ったのは、同じく一年C組の教室にいた他のクラスメイト達である。  外側で何気に見ていた幾人かの生徒たちが堪らず悲鳴をあげると、血だまりで倒れている元太の姿を見た他の生徒たちもまた悲鳴をあげ、恐怖を拡散させていく。 「きゃあああぁぁぁぁぁーー、元太くんが、元太くんが、カッターナイフで自分の首を切って倒れこんでいるわ。だれか早く先生たちを呼んで!」 「元太が死んだ、死んでいるぞ。なぜこんな事になってしまったんだ?」 「馬鹿、まだ死んでいねえよ、極めて危険な状態だが、まだ生きているはずだ。いいから、早く先生たちに知らせて、救急車を呼んでもらえ。早くしろ!」  他の生徒たちが慌ただしく動く中、やっと状況を認識した浩一・加也子・光義の三人は下に倒れている元太を起こそうと思わず手を伸ばすが、その行為を神奈が止める。 「やめなさい、今下手に体を動かすのは危険よ。とりあえずは手ぬぐいか何かで首の傷口を押さえて、救急車が来るまで流出する出血をできるだけ防ぐのよ!」  厳しく言い放つ神奈の指示に従うかのように動く美弥子は持参の手ぬぐいを大量に血が流れる元太の首筋にきつく当てるが、流れ出る血は止まらないようだ。  加也子の持つ手ぬぐいは直ぐに血の液体で重くなり、代わりの手ぬぐいやハンカチは全く役には立たない。  この凄惨な状況をみる限り、誰の目から見ても元太の生存率は絶望的である事を示していた。 「元太、元太、なぜこんな事に、一体なぜだぁぁぁ!」  恐怖よりも憤りが勝ったのか浩一は元太の前にひざまずくと訳が分からないとばかりに泣き崩れる。 「元太、お前一体どうしちまったんだ。まさか、いきなり自分の首を刺すだなんて、未だに信じられない。そうまるで、誰かに体を乗っ取られたかのような言動をしていた。やはり、首切り坊主の呪いは存在するのか?」  大きな騒ぎとなった教室に駆けつける先生たちの姿を見ていた伊勢間光義は元太の自傷行為を止められなかった自分に責任を感じていたが、呆然と立ち尽くす光義にいつの間にか隣に来ていた高円寺神奈が心配そうに声を掛ける。 「しっかりして、まだ終わった訳じゃないわ。この呪いは恐らくこれから始まるはずよ。私が見た感じじゃ、光義くん、浩一くん、加也子さん、あなた達三人はまだ呪われているわ。それにしても一体どこでこんな強力な呪いを貰って来たのかは知らないけど、今日は学校を休んで直ぐにうちの神社に来た方がよさそうね。効くかどうかは分からないけど、お祓いをしておいてあげるから急いだ方がいいわ!」 「お祓いか、そういえば家を出る前に五助爺さんからお札を数枚貰って来ていたな。確か今日は肌身離さず持っていろとか言っていたが、どこに仕舞ったかな。確か制服のポケットの中に入れたよな」  独り言をぼやきながらもポケットから真ん中から折り曲がった数枚のお札を取り出すが、そのお札を見た高円寺神奈は思わず苦い顔をする。なぜなら急いで取り出したお札が全て不気味なほどに黒く変色していたからだ。 「うっわああぁぁ、俺の持つお札が全て黒く変色している。朝に五助爺さんから貰った時はしわ一つない新品その物だったのに?」 「それだけこの呪いは超強力と言う事よ。先ほど元太くんが名乗った、首切り坊主という妖怪、こいつはかなり恐ろしく、そして厄介な相手よ。変なのに関わってしまったわね!」  真っ黒く変色したお札に恐れおののく伊勢間光義を見ていた高円寺神奈は、三人の命を救う為に、神に仕える巫女として覚悟を決めるのだった。
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