6.暁の神

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6.暁の神

 6.暁の神 「ただいま、今帰ったけど、どこにいるんだ。俺やっぱり首切り坊主に祟られているみたいなんだ。だからこれから一晩部屋に籠るつもりだけど、なにか対抗策はないのか。教えてくれよ、五助爺さん!」  神明神社のある高円寺神奈の家から逃げるように帰って来た伊勢間光義は玄関に着くと助けを求めるかのように五助爺さんの姿を探す。  慌てながらも茶の間や客間、台所などを順番に見て回る光義だったが、一番奥にある五助爺さんの部屋まで来ると一呼吸おいてからドアを二回ノックする。 「爺さん、いるか?」  在宅かを確認する光義に向けて、ドアを隔てた部屋の中からいつもの聞き覚えのある声が飛ぶ。おのずと知れた伊勢間五助爺さんである。 「光義か、鍵は開いてるぞ、入ってこい」  五助爺さんが部屋の中に入ってこいと声をかけると、その力ある言葉に安心したのか、光義は力強く部屋のドアを開ける。 「入るぞ、爺さん」  中に入るとそこには五助爺さんの趣味でもある、テレビで見るアニメロボットのプラモデルや七分の一スケールの美少女フィギュアが棚の各段に、綺麗に並ぶ。  八畳ほどある畳の部屋に埋め尽くさんばかりのプラモデルやフィギュア達が出迎える中、前に進むと、奥の壁にある小さな仏壇に向けて静かに手を合わせる五助爺さんの姿が目に入る。  いい歳して、相変わらず子供のような趣味をしているなと思いながらも口にしないのは祖父の趣味がもはや遊びの範囲から匠ともいえるプロレベルへと進化しているからだ。その仕事ぶりは繊細かつ緻密であり、製作する作品はどれも芸術的で最高の出来だと見た人達皆に評価されているほどだ。  プラモデルやフィギュアを魔改造する技術の高さは認めつつも五助爺さんのオタク気質の趣味に、内心複雑な思いを募らせる光義は、神棚に深々と頭を下げ何かを拝んでいる五助爺さんに向けて話しかける。 「朝、洗面台で顔を洗おうとした時に五助爺さん、俺に言っていたよな。学校から帰ったらワシが何とかしてやるって。そして、早退はしたがどうにか無事に家に帰って来たけど、何とかするって、一体何をしてくれるんだ。あの首切り坊主の呪いを解くことのできる、なにかいい秘策でもあるのか?」  焦り気味の顔で光義が話しかけると、五助爺さんは正座をしたまま光義の方を向く。 「どうやら無事に帰って来たようだな。まさかお告げ通りにこんな日が来るとは思わなかったぞ」 「御告げってなんだよ。爺さん、なに言ってんだよ?」 「どうやらあの事を、お前に話しておかないといけないようだな」  なにやら神妙な顔で光義を見ると、落ち着いた声で語り出す。 「お前、ワシの嫁、つまりは祖母のトメ婆さんの事は覚えているか」 「トメ婆さんだって……ああ、おぼろげにだが覚えてるよ。でも俺が小学三年生の時に癌の病気で死んだと記憶しているが、それがどうかしたのか?」 「そのトメ婆さんが若かりし頃、三重県にある伊勢神宮、内宮で巫女さんをしていたことは知っていたか」  五助爺さんから教えられた予想だにしない言葉に光義は素直に驚く。 「あの日本全国でも有名な神社の総本山にして、総氏神がおわす伊勢神宮の内宮で、巫女さんの仕事をしていたのか。それは初耳だが、それが一体なんだというんだ?」 「聞いた話では、祖母のトメ婆さんがまだ十代後半の頃、伊勢神宮内宮で巫女として働いていたトメ婆さんはそこで物凄く不思議な体験をしたとの事だ。その体験とは……」  一呼吸置くと五助爺さんは、昔伊勢神宮で巫女として神に仕えていた若き日のトメ婆さんの体験談を語る。 「若き日の巫女時代、非常に霊力が高かったトメ婆さんは、ある日、気づいたらなぜか伊勢神宮・内宮の中心となる正宮、皇大神宮の前に突っ立っていたらしいんだが、そこである神に名前を呼ばれたとの事だ。夜が明け、太陽が昇る暁の光と共にその姿を表したその神は軽い挨拶をかわすと、トメ婆さんにある物を手渡したというのだ」 「皇大神宮の前で突然現れた神様と出会っただとう。その神様って場所的に天照大御神が現れたと言う事だよな」 「少なくとも生前、トメ婆さんは神様に会ったと、そう言っておったぞ」 「天照大御神って、伊勢神宮の中じゃ……いいや日本にある神社の中じゃ、一番位の高い総氏神じゃねえか。神宮事態も二千年の歴史を持つというし、そのお偉い日本の神様に、トメ婆さんが呼ばれただってぇぇ、なんだか胡散臭い話だな」 「まあトメ婆さんがそう言っていただけだし、真相はわからんがな。だがワシはその話を信じとるよ。いや、信じざる追えないと言った方が正しいかな」 「正しいって一体なんだよ。その言いぐさじゃ、神様から直接手渡されたとされる証拠の品は実際にあると言う事か。で、そのある物とは一体なんだ?」 「天照大御神の御神体ともいうべき、八咫の鏡の欠片だよ」
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