7.八咫の鏡の欠片

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7.八咫の鏡の欠片

 7.八咫の鏡の欠片  その突拍子のない話を聞いた伊勢間光義は八咫の鏡と聞き酷く驚くと、驚愕の顔をする。 「八咫の鏡だって……あの天皇家が持つとされる三種の神器の一つか。伊勢神宮内宮には八咫の鏡。名古屋市の熱田神宮には天叢雲剣。東京赤坂御所には八尺瓊勾玉があって、たとえ天皇家の人達でさえ見ることができない神器なのに、鏡の欠片とはいえ何しれっと神様からそんな重要な物をもらってるんだよ。そんなのが宮内庁の人間にばれたら秘密裏に処理される案件だぞ。その話が本当なら、それはさすがに不味いだろ!」 「あの天皇家が持つ本物の、三種の神器ではないと思うから大丈夫じゃよ。恐らく天照大御神様が新たにお作りになられた形代の一部じゃろうからそんなに心配はないと言う事じゃ」 「そんなのはわかる物か。まあその神様が本当に天照大御神かは怪しいがな」  昔に経験したトメ婆さんの体験談を胡散臭そうに疑うと光義は焦点を変え、今度は神様から貰ったとされる八咫の鏡の欠片について聞き返す。 「それで、その八咫の鏡の欠片が一体なんだと言うんだ?」 「なんでも生前トメ婆さんが言うには、天照大御神様から貰ったその八咫の鏡の欠片には新たに生まれた別の神様が宿っているというのだ。その欠片は御神体として我が家で祀られ、今はワシが持っているという訳なのだ。つまりその八咫の鏡の欠片の力でなら、あの首切り坊主に対抗できるかもしれないと言う事じゃよ」 「八咫の鏡の欠片だって、そんな胡散臭い話を信じろというのか。でも今は藁にも縋りたい思いだから、その八咫の鏡の欠片を試して見ると、言う事だな。それで、その八咫の鏡の欠片は一体どこにあるんだ?」  救いを求めるかのように八咫の鏡の欠片を欲する光義に対し、五助爺さんは神棚の奥からリカちゃん人形が治まるくらいの、長方形の木箱を取り出す。 「なんだよ、その木箱は、八咫の鏡の欠片が入っているにしてはやけに大きいな。かけらとは言うからペンダントくらいの大きさの代物だと想像していたんだが、違うのか?」  怪訝な顔で木箱を見つめるそんな光義に向けて、五助爺さんはなにやら意味ありげにニヤリと笑う。 「蓋を開けてみろ」  五助爺さんの指示で蓋を開けて見ると、そこには今どきの可愛らしいキャラクターを思わせる和風の天女を彷彿とさせる巫女服を着た美少女フィギュアが納められていた。  その精巧にできたフィギュアは綺麗かつ美しく、まるで神が立っているかのような謎の後光のようなオーラを体全体から発しているように光義には見えた。  その美しいフィギュアの造形美を見た光義は大きく溜息を吐くと、目の前で満足げな顔をする五助爺さんにあきれ気味に言う。 「これって、五助爺さんが作った美少女フィギュアだよな」 「そうだが、よく出来てるだろ」 「確かによくできてはいるが、俺が見たいのは八咫の鏡の欠片であって、美少女フィギュアではないんだが、そこは理解しているか」 「ああ、理解しているよ」 「ならなんでこんな悪ふざけをするんだよ。今とても焦っているこの時に悪ふざけはやめてくれ。俺の命がかかってんだぞ!」  怒り任せにいう光義の態度に、五助爺さんは極めて真面目な顔で言う。 「ふざけてはおらんよ、見た通りじゃ。このフィギュアこそが、我が家の守り神にして暁の神の御神体だよ」 「このフィギュアが?」  腑に落ちない感じで言うと、光義は改めてフィギュアを手に持ち、しみじみとその美少女フィギュアをみる。 「実は数ヵ月前にワシにご神託があったのじゃ。闇を司る邪悪な神が復活し、この日本国内に危機が迫っていると。故にワシに、姿見となる体を作ってくれとお願いされたのじゃが、まさか本当にこんな事になろうとは正直思わんかったよ」 「姿見だって、じゃこのフィギュアの中には……」 「そうじゃよ、このフィギュアの中には、昔伊勢神宮内宮でトメ婆さんが貰ったとされる八咫の鏡の欠片が埋め込まれているのだ。どうだ、びっくりしたじゃろ!」 「びっくりしたというか、なんて罰当たりな事をするんだ。本当に御告げがあったのかよ?まさか五助爺さんの趣味で欠片を埋め込んだんじゃないだろうな」 「そんな事はするもんか、さすがに恐れ多いじゃろうが。そんな訳で、お前にこの暁の神のご神体を託して置く。必ずお前を守ってくれるはずだ!」  自信満々にいう五助爺さんとは対照的に、光義は気のない返事をする。 「このフィギュアが、家のご神体ね。仏像とかならともかく、なんだか恥ずかしくて人には絶対に見せられないって感じだな。しかしよく出来ているフィギュアだな。この袴の下はどうなっているんだ。まさかパンツでも履いているんじゃないだろうな?」  どうでもいい疑問を解決したいとばかりに光義は思わず袴の下を覗こうとするが、その瞬間、侍のフィギュアがなんの舞いぶれもなく天井から頭に落ちてくる。  バッキーーン! 「い、痛い、なんでいきなり別のフィギュアが頭に落ちてくるんだ。たとえ落ちてきたとしても棚の上に置いてあるフィギュアが、部屋の真ん中にいる俺の所まで飛んでくるはずがないんだ。しかも天井の位置から一直線に俺の頭を目掛けて落ちてきたって感じだ。これはまさに不気味で、不可思議な現象だ。まさかこの現象は暁の神とか言う、ご神体が起こせし力なのか?」  痛そうに頭をさすっていると光義の体にいきなり稲妻のような電流が走り、硬直した体は激しく震える。  ビリビリビリビリ、バッシュウウ――ン! (な、なんだ、この衝撃は?) 「ぐっわあぁぁぁぁ、なんだよ、一体俺の身に、なにが起きたんだ?」  体の震えが止まり、力なくその場に崩れる光義を見た五助爺さんはニヤリと笑うと、侍のフィギュアが腰に下げてある日本刀を装備から外す。  するとその日本刀を今度はご神体でもある美少女フィギュアの腰にさり気なく括りつけると納得したのか、満足げに鼻息を荒くする。 「これで良しと。光義よ、どうやらお前は暁の神様に気に入られたようだな。そしておめでとう、今日からお前が神憑きじゃ」 「神憑き……なんだよ、それは?」 「フフフ、ワシもトメ婆さんに八咫の鏡の欠片を託された時に、神憑きになったのじゃが、まさかそれを孫にも継がせる時が来るとは正直思わなかったぞい。やはりこれも運命なのかのう、やはりお告げは本当じゃった」 「御告げとか、継がせるとか、意味わかんねえよ。ちょっと袴の下を覗こうとしただけなのに、まさか怒っているのか?」 「お前が罰当たりな事をするからじゃよ。これからは本物の女性を扱うように接した方がいいぞい、でないと大変な事になるぞ」 「一体このフィギュアは何なんだよ?」 「その答えは、近いうちに、いずれ分かるじゃろう。お前は邪神様の野望を、暁の神様と共に阻止しなくてはならない!」 (邪神様……どこかで聞いた言葉だな。どこでだったかな?)  謎めいた出来事に数秒間沈黙する光義だったが気を取り直し、目の前にある美少女フィギュアを高らかに持ち上げる。 「と、とにかくだ、このフィギュアにあの首切り坊主を退ける力があるというのなら、騙されたと思って、ちょっとだけ借りさせて貰うよ。今は藁にも縋りたい気分だからな」 「いいや、そのご神体はもうお前の物だ。お前が持っていなさい」 「ああ、取りあえず、部屋に置いておくよ」  光義は暁の神のご神体を見ながらしみじみ言うと、少しだけその謎の神様の力に期待するのだった。
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