8.電話の相手

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8.電話の相手

 8.電話の相手  時刻は夕方の十八時丁度。  五助爺さんの部屋から戻り、おびえながらも一日中自室に閉じこもっていた光義は、机の上に置いてある暁の神と評するご神体を何となく見つめると、その思いに耽る。  体の中に八咫の鏡の欠片が埋め込まれているらしいそのご神体は全体から神々しさを放っていると思えなくもなかったが、物は美少女フィギュアなのでどうも有難味がでない。  造形は綺麗な長い黒髪にきらびやかな巫女服を着た姿をしており、額の辺りには太陽を形どった金色の飾りが、日本のとある太陽神を連想させる。  確かにどこかのフィギュア専門店で三万円くらいの値打ちくらいだと言われても決して可笑しくはないその造形の高さは目を見張る物があるが、だからといってこのフィギュアに神が宿っているとは、とてもじゃないが信じられない。  光義は大きく溜息を付くと、何気に手を合わせ神頼みをしてみる。 「神様お願いです、あの首切り坊主から俺を守って下さい!」  同級生でもある一年C組の元太が自らの首をカッターナイフで刺し、そのショックから高校を早退し、その後は高円寺神奈の家に隣接している神明神社でお祓いをしてから、家に帰って来た光義はまるで思い出したかのように神奈から貰った、神水、お札、粗塩をご神体の前に置く。  その行為はご神体の力で怪異に対抗する道具を少しでも清めて欲しいという些細な験担ぎ程度の物であったが、縋る物を少しでも確保したいという気持ちを消す事はできない。  何もしないよりはマシだとばかりにお札を部屋中に張りまくる光義は死への恐怖と戦いながらも浩一と加也子の心配をする。  そんな気苦労をしていると光義のスマホに、同級生の浩一から電話が来る。  プルプルプル……プルプル……プルプル!  マナーモードのスマホが震え、電話番号を確認した光義は慌てて電話に出る。 「もしもし、浩一か。お前が俺に電話をして来るだなんて珍しいな。もしかしてなにかあったのか?」 「光義……病院に運ばれた元太がどうなったか知っているか」  怯えた声で話す浩一の言葉に、光義は確信めいた嫌な予感がありながらも敢えて聞く。 「元太の奴は一体どうなった?」 「亡くなった。今日の昼ごろにな」 「死んだ……元太が」  カッターナイフで喉を突いたので、大量の出血と窒息でまず助からない事は何となくわかってはいたが、他者から真実を聞いた事で仲間の死を実感した光義は、呪いの効果に改めて恐怖する。  そんな光義に浩一は元太の死を告げると、泣きそうな声で不安を口にする。 「なんで今まで忘れてたんだろう。確かに昨夜、あの廃寺に行ったわ。急に思い出したけどこれも首切り坊主とかいう奴の呪いのせいなのかな?」 「そんなに不安なら、やはりお祓いはきちんと受けておくべきだったな。それで、加也子さんはどうしている」 「ショックで熱が出たから今は大人しく家で寝ているってメールが来ていたよ」  話を聞き、精神的にかなり追い詰められていると感じた光義は、浩一にある提案をする。 「浩一、明日の朝早くに俺は高円寺神奈の案内で、この呪いを解く為にある霊山に行くんだが、もし良かったらお前も行かないか。来るつもりなら当然加也子の奴も誘ってもいい。どうかな、後で高円寺には言って置くからさ」 「本当か、それは助かる。やはり今日はお前と一緒にお祓いに行けばよかったな」 「浩一……他になにかあったのか?」  浩一の態度が明らかに違う事に光義は瞬時に感づく。 「実は……家の外にいるみたいなんだ」 「いるって、なにがだよ?」 「片手鎌を持ち、薄汚い法師の姿をした男の老人、そう首切り坊主が……」  震えながら話す、浩一の『首切り坊主が家の近くにいる』という発言に、光義は瞬時に血の気が引き、口元が引きつる。 「く、首切り坊主だって……近くに来ているのか。とにかく家中の窓やドアを施錠しろ。そして部屋の中で朝が来るのを大人しく待つんだ!」  必死に助言をする光義の声を聞いていた浩一は、少し落ち着いたのか自分の考えを述べる。 「いいや、逃げるつもりは毛頭ないぜ。元太を殺した奴が外にいるというのなら迎え撃ってやる。実は俺の家にも(どこの神社の物かは知らないが)お札があったから、こいつで撃退してやるぜ!」  勇気が出たのか強がりながらも話す浩一の言動に光義は驚き、すぐさま止める。 「馬鹿な事はやめるんだ。俺もお札は数枚持っていたが、全く効かなかった。高円寺神奈の神社でお祓いもしたし、粗塩だって舐めた。でもそんなんじゃ全く効かなかった!」 「そんなのやってみないと分からないだろ。俺の友達でもある元太が呪い殺されたんだぞ。その元凶ともいうべき存在がわざわざここに来たというのなら来たことを後悔させてやる。幽霊なんかに舐められっぱなしは俺の性分に合わないからな!」 「生きている人間ならともかく、人じゃ無い者に、怪異に勝てる訳がないだろ!」 「あいつ、家のドアを鎌で引っ搔いてやがる。すまんこれで電話を切るぞ。なんか家の親が玄関のドアの異変に気づいてドアを開けるつもりだ。ちょっと止めて来るよ」 「浩一、早く両親を止めるんだ。絶対に玄関のドアは開けさせるな!」 「ああ、そのつもりだ。そんな訳で電話を切るぞ。そして明日の朝、一番でお前の家に行くから、その時は俺と加也子も一緒に連れていってくれ。じゃ明日は頼んだからな」  余程焦っているのか直ぐに話を終えると、浩一は携帯電話の通話を切る。
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