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生きていれば、選択の繰り返しであり、そこには、悩みがつきものである――。
初めて真剣に悩んだのは中学生の時だったろうか。俺は、運動部に入るか文化部に入るかで、迷っていた。
小学校では野球をやっていた。だが、俺の進んだ中学の野球部はクラブチーム上がりが集まるガチなやつ。俺は仲間と楽しくやる野球が好きだったから、あんまりガチなやつは御免被りたかった。
その頃俺が仲良くしていた友人が『美術部に入る』などと抜かしていたこともあり、このままゆる~く文化部で過ごすのもいいんじゃないかって気になっていたのだ。
結局俺は美術部へ。親には驚かれたが、部活は緩かったし、女子とは仲良くなれたし、何気に絵が上手くなったりもして、それはそれでよかった気がする。
次に迷ったのは高校受験。進路だ。
俺には当時、好きな子がいて、付き合ってはいなかったけれど、両想いであることは明らかだった。このまま同じ高校に進めれば、高校生活スタートと同時に付き合うことになるだろうな、なんて甘い夢を見ていた。
だが、彼女はとんでもなく頭が良かったのだ。
俺の成績は中の上。彼女は常に、学年トップテンに入るくらいの秀才だ。そんな彼女と同じ高校に? 誰がどう見ても、無理な話だった。
しかし、人間という生き物は邪な動機である方が力を発揮するものだ。(と思う)俺は中三の夏から通い始めた塾でメキメキと力を付け、ギリギリ合格圏内に入るほどの成績を取るようになっていた。
とはいえ、元々秀才だった彼女と、付け焼刃の俺。親や先生は、高望みはやめてもう一つ下を受けろと言ってくる。
迷った俺は……自分の行きたい道を進んだ。彼女と同じ高校を受けたのだ。そして見事合格を勝ち取った!
それなのに……。
受かったのは俺だけだった。彼女は、常に合格圏内にいたはずなのに、何故か受からなかった。
結果的に二人は離れ離れ。付き合うこともないまま、疎遠になってしまった。
高校では苦労の連続だった。なにしろ俺は付け焼刃の成績で入っている。ずっと頭がよかったやつとは出来が違う。入学したはいいが、勉強についていくのがやっとの状態で、とても『高校生活を楽しむ』なんてことにはならない。しかもこんなに勉強しても、落ちこぼれなのだから救いがない。俺はすっかり学校が嫌いな根暗男になっていた。
それから迎える大学受験。
落ちこぼれているとはいえ進学校にいた俺は、そこそこの大学へと入ることが出来た。
気を取り直して学校生活を楽しむときだ!
サークルに入り、バイトをして、彼女も作った。大学生の恋愛なんてのは、ファッションと同じだ。飽きたらすぐに捨てられる。いちいち気にする必要もないほど、フッたり、フラレたりを繰り返していった。
そうこうしているうち、今度は就職活動が始まり、給料はいいが、リスクの高い会社と、給料は低いが、将来性のある会社を天秤にかけることとなる。だが、そんなもん、簡単だろ?
俺は選んだ。世の中、金が大事だ。
俺は派手に稼いだ。稼いで、そして使った。これが『金を回す』ってことだ、などと心の中でほくそ笑む。同期と比べても俺は華やかな生活を送っていたはずだ。
そしていつしか結婚を考えるようになる。
付き合っていた彼女は仕事先の専務の娘。いわゆるお嬢様であり、俺の将来は約束されたも同然だった。
しかし、ここにきて運命は俺を試そうとしているのか、事態は急変する。同窓会の知らせが届いたのだ。
中学時代の懐かしい面々が集まる。両想いであると確信していながらも、付き合うことなく別れてしまった彼女。再会は、俺の心をざわつかせるに充分なほどの魅力があり、彼女と話すうちに気持ちはあの頃へと戻ってゆく。
どうするのが正しい道なのか。
俺はどっちを、選ぶべきなのか――。
いつだって正しい道を選んできたつもりだ。
だから今も最大限頭を働かせ、考える。
同窓会の後、ホテルで結ばれた俺と彼女の元に、突如現れた婚約者。
大乱闘の結果、突き飛ばした先にあるテーブルに頭をぶつけて動かなくなってしまった婚約者。
怯え、泣いている彼女。
俺は窓を開けると、ベランダから泣いている彼女を投げ落とすことにした。
俺をめぐって女二人で争った結果、彼女は婚約者を事故死させ、それを悔いて彼女は飛び降りるのだ。
しかし、そうなると俺は誰と結婚すればいいのだろう?
――生きることは、なかなかに難しく、悩ましいものである。
了
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