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「わかった! わかった! お前が俺を好きなのはわかっている! だからまずその手をなんとかしろ!」
焦ってそうまくし立てると、俺の脚の付け根に悩まし気に手のひらを這わせている目の前の(下手したらそんじょそこらの女よりも)美しく清廉で、それでいて大胆な男は面白そうに手を退けた。
「ねぇ、いい加減、俺に堕ちなって? 自分で言うのも何だけどかなりの優良物件だと思うけど?」
確かにコイツはこの店、ホストクラブ『ネロック』でナンバーツーを張っていて、明るいハニーベージュに染めた髪、仔犬のような形の瞳にはブラウンのカラーコンタクトを入れている見た目だけなら儚げな美青年だ。
美青年だが――。
「わかった。わかったから待て。確かに真夜のことは嫌いじゃない……とは思う。思うが……俺は男は無理なんだ」
「別に興味本位で抱いちゃえばいいんじゃない?」
あまりにも明け透けな言葉に思わず吹き出すと、目の前の美青年はまたもや脚の付け根を思わせぶりに手のひらで擦った。
「だ、だから! 俺は男なんて抱けん!」
「――でも、俺のことは嫌いじゃないんだよね?」
そう言われてしまえば、グッと口を噤まざるを得ない。
「お前のことは……綺麗だとは思うし嫌いではない。だが、だからと言って抱けるかと言われたら回答に困る」
なぜならば、どんなに女より美しくて清廉だとは言え真夜はれっきとした男であり、股間には俺と同じモノがぶら下がっているのだ。
果たしてそれを見て欲情出来るか?と問われれば自信などあるわけがない。
「んー……そんなのやってみなくちゃわかんなくない?」
「そんな簡単なことがあるか! とりあえず気持ちはわかっている。わかっているから変な誘惑はよせ」
ここ、ホストクラブ『ネロック』にはバックヤードにパウダールームと六ブースのシャワールーム、そして今居るロッカールームが完備されている。
目の前の美青年はシャワーから出るなり甘い芳香を漂わせながら俺に纏わりついてくるのがここ最近の日課のようなものだ。
俺はつい最近までナンバーツーを張っていたが、三ヶ月前に入ってきたこの美しく清廉な二十歳になる美青年――黒崎 真夜――に瞬く間に売上を追い越され、今はナンバースリーに留まっている。
(何故年下のライバルに誘惑されているのか……俺は誓ってゲイじゃない! 男など抱けるか!)
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