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翌日夕方、ガーベラに呼び出された老執事は片手で持つには少々大きい程度の木箱を抱えて彼女の部屋を訪れた。
「どうかなさいましたかお嬢様」
などとすまし顔で言ってみたものの彼女が膨れっ面をしている理由は概ね察している。それ故のこの荷物だ。
「鍵が掛かっていたのだけど?」
「それはまあ、然様でございますね」
老執事は笑いを堪えるのに一苦労だった。
鍵は普通掛かっているものだ。
しかし、この屋敷を囲む塀の内側で超人的なほど縦横無尽に人知れず闊歩する少女は、その実選択経路に施錠されていた経験がなかったのである。
「私見を申し上げるならば使用人らの私物箱も施錠出来るようにすべきだと考えておりますが、身内を疑うのも如何なものかという奥方様のご意見により見送っている次第でございまして。一般的には第三者に触れさせたくない扉や引き出しにはすべて鍵が掛かっているものでございます」
「そんな」
社会的には常識であっても、この屋敷をほとんど出た経験の無い世間知らずの少女には不当な障害だっただろう。そこで持って来た木箱の出番だ。
「そうおっしゃるのではないかと思いまして、今日はお嬢様が好まれそうな玩具をお持ち致しました」
「お、玩具?」
「ええ、ええ。きっとお気に召されますよ」
満面の笑みで彼が差し出した箱に詰められていたものは、この屋敷のありとあらゆる錠前の複製品だった。どれがなにだと老執事はいちいち説明しなかったが、ガーベラもまたその意図を十分に汲んでいた。
『この程度は全て捌いてみせろ』
と。そういうことだ。
それからしばらく少女の行動は静かなものだった。暇さえあれば自室に篭り女使用人らを遠ざけて錠前の解析と開錠技術の取得に没頭した。
なにひとつ知らぬ少女に無慈悲な常識を突き付け、同時にそれを完膚なきまで打開させる。彼女の才能と気性を信じていればこその教育だった。
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