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お父さん、デートの代理をお願いします
我が家の息子は可愛い。父親である私にそっくりなのが申し訳ないくらいに可愛い。あんまり可愛がったせいか、小学生の頃から女の子の格好をしている。男の娘というやつだ。
母親も父親である私も低身長のため、息子も漏れなく小さいままだ。
「僕は可愛くいられたら身長なんていらないから」
中学生まではあまり気にしなかったが、高校生にもなるとその言葉に不安にもなる。こんないつまでも守りたくなるような可愛いままでこの子は大切なものを守ることができるのだろうかと。息子が可愛くいたいのは尊重する。だが、そのせいで誰かに傷つられたりしたら? そう思うと不安で仕方ないのだ。
優月は明日はデートだとはしゃいでいた。最近、パートナーができたことは聞いていたが、男性なのか女性なのか分からない。妻に聞いても分からないという。例え同性のパートナーであっても受け入れるつもりでいる。ただ、優月はパートナーの話を全くしない。悪い男に騙されているのではないか? もしかしたら嫌味な女にゆすられているのではないか? 優月のことを考えると不安で不安でどうしようもない。優月が可愛いばっかりに。
「お父さん……、今日無理……」
翌朝、優月が気怠そうに起きてきた。
「デートなのに……」
無理はして欲しくない。妻は優月を椅子に座らせて背中を擦る。
「仕方ないだろう。予定をキャンセルしなさい」
私が声をかけると優月は目を潤ませながら私の顔をまじまじ見つめてくる。
「やだよ……。せっかく予定合わせてくれたのに……」
「とは言ってもだな」
「そうだ! お父さん、代理で行ってよ! 僕とそっくりだから女装も似合うから! 身長も同じくらいだから僕の服も入るよ!」
「私が女装!? デートの代理!? 無理無理無理無理無理無理!」
「お父さん……お願い……。あきちゃんに心配かけたくないんだ……」
目を潤ませて手を合わせる優月。やはり可愛い。そして、パートナーはあきちゃんと言うのか。ということは女の子か。
「しかし……、優月ほどの若さはないし……」
「お父さんなら大丈夫だから。可愛いもん!」
父親に向かって可愛いもんとか。複雑だ。なんとなく嬉しくなっている私の感情も複雑だ。
「あなた、お願い聞いてあげて。そんなお願い、あなたでなきゃできないから」
妻からも頭を下げられた。父親に頼む話じゃないと思うが、可愛い息子の頼みだ。断りきれない。
「……どうなっても知らないぞ?」
「大丈夫だよ。お父さん、可愛いから。ちゃんと僕と同じメイクしてあげるし」
心なしか優月の目が輝いた気がした。
「あんまり無理するなよ?」
「そのくらいの無理はしないと。あきちゃんをよろしくね」
押しに押されて変な話になったが、これはこれでチャンスかも知れない。優月のパートナーがどんな人なのか知ることができるのだから。優月に相応しいかどうか父親としてちゃんと見極めさせてもらう。
優月の服を着て、優月にメイクをされて、ウィッグを被させられる。
「お父さん、鏡見て」
「これが私か……」
優月そっくりに可愛くなった私が鏡に映っている。
「だからお父さんは可愛いって言ったじゃん? ナンパには気をつけてね。僕、心配だよ」
「安心しなさい。お父さんはこれでも大人だから」
「でも変な人について行っちゃ駄目だよ? 可愛いってだけは危険は多いんだから。お父さん可愛すぎるんだから」
息子にそんなこと言われる存在って他にいるのだろうか。あまりに複雑な状況すぎて、言葉に表せない。ただ心配ばかりされても話が進まない。
「優月を今まで育てた実績があるのだから。な?」
可愛い息子を守ってきた実績。それで押し通すしかない。
「だから優月は大人しく寝ていなさい。体調悪いんだから」
「うん……。ありがとう」
優月は素直だ。高校生になってもとんでもなく素直だ。可愛い息子のために頑張るしかない。こんないい子のパートナーとはどんな人なのだろう?
もう一度鏡を見る。中年男性でもこんなに化けられるものなのだな。優月の技術にも舌を巻いてしまう。
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