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私の手にあったクレープに口をつける。
「甘いなぁ」
「当たり前だよね? チョコクレープなんだから」
あきちゃんはおかしそうに笑う。そんなにおかしかったか? てかさっきなんか変なこと起こったような気がするが。
「優月、クレープ食べるの下手だもんね。だからほっぺについたクリームとかいつも僕がなめちゃう訳だけど」
……それはヤバい。優月のパートナーにニセモノである私にそんなことさせるのは非常にマズい。可愛い我が子を悲しませてしまう。
クレープを食べる速度が極端に遅くなる。私はあきちゃんの倍の時間をかけて口のまわりにクリームがつかないように慎重に食べ終わった。
「ふうクレープなど久しぶりに……」
食べたなと言おうとして我に返る。話の流れからして優月とあきちゃんは頻繁にクレープを食べている。
「お父さんが久しくクレープ食べてないって言ってたんだ!」
本当に私は久しく食べていない。捏造だか捏造ではない。おそらく十年は食べていない。最後に食べたのは優月が小学校にあがる前だ。
「ふふ。変な優月。ねぇ優月のお父さんってどんな人なの?」
私だ。間違いなく私だ。だが、私が私を我が子のパートナーの前で語るとかどんな拷問?
「背は小さくて声は高い。若く見られがちでなめられがち。むす……、僕のことが大好きなんだ」
本当のことで尚且つ捏造にならないように並べてみる。
「ふうん。このあとどうする? カラオケでも行く?」
「散歩しよう!」
優月のカラオケの選曲など知らないのだから、カラオケなんかに行ったら即バレの可能性がある。行ける訳がない。
「それもいいね」
あきちゃんは私の手を引いて歩き出す。冬の風は肌に少しばかり痛いが、私の心は安堵している。下手に店に入ると間違いなくボロが出る。というかもう散々ボロを出しているはずなのになぜ、あきちゃんは気付かないのだろう。
「ねーねー二人とも可愛いね! お兄さんとお茶しない?」
「間に合ってます。デートの邪魔をしないでください」
あきちゃんは何度目かのナンパを撃退する。優月もあきちゃんも可愛いが男の子でも可愛かったらこんなに声をかけられるものなのだな。優月も苦労する訳だ。それでも可愛くいたいと言うのだから生半な覚悟ではないだろう。それに私の年齢でもこんなに化けられた訳だから、優月は間違いなく私の年齢になっても苦労するだろう。
そんなことを考えていると私はあることに気付く。
「あきちゃん……朝通った道じゃ……」
「うん!」
あきちゃんは元気に返事をして私をぐいぐい引っ張る。辿り着いた場所は待ち合わせ場所の公園の噴水。そこには優月が可愛い格好をして待ち構えていた。
「あきちゃん、お疲れ!」
「優月、いえーい!」
二人でハイタッチをしているが、私は何が起こっているのか皆目見当がつかない。
「お父さん、あきちゃんはどうだった?」
「え? へ? は?」
私は変な声を三連続であげる。
「実はね、あきちゃんははじめからお父さんだと分かってたんだ」
「なんで……そんなことを……」
言葉に詰まるとあきちゃんが私に向かって深々頭を下げてから教えてくれる。
「おじさん、優月が心配だったのでしょう? パートナーの紹介と優月が普段どうなのかを知ってもらおうと思って僕が提案しました。おじさん、優月は全然弱くありません。好きなこと好きな人に真っ直ぐ向き合っている強い子です」
あきちゃんの目は真っ直ぐに私を見据える。
「あと、僕はあきちゃんがどんな人なのか、お父さんに知ってもらいたかったんだ。お父さんからみてあきちゃんはどんな子だった?」
「心配性の優しい子。そして芯の強い子だった。優月とあきちゃんならお父さんは安心だよ」
「やったーー!」
優月とあきちゃんは、またハイタッチをする。心底嬉しそうだ。
「ただ、なぜお父さんをニセモノにしたんだい? 普通に紹介してくれたら良かったろう?」
優月は満面の笑みを浮かべる。
「お父さんが可愛いのあきちゃんに見てほしかったんだ! お父さん、またやらない? びっくりするくらい可愛くなっちゃうんだもの!」
「本当、優月のお父さん可愛いよね! 分かってて話してたけども言ってることもいちいち可愛いの!」
優月とあきちゃんが二人で盛り上がる。
「今度は僕にメイクさせてよ! 今日は優月が優月に寄せたメイクだけど、違うタイプのメイクも見てみたい! ねぇねぇおじさん、いいでしょ?」
あきちゃんが私の両手を握るぶんぶんと振り回す。これは諦めるしかないか……。
「たまになら……。ただ外を歩くのは勘弁して欲しい。今も恥ずかしくて恥ずかしく仕方ないのだから……」
「お父さん可愛い!」
男の娘である息子に可愛いと言われる父親は世の中にどれほどいるのだろう?
そして、その息子に男の娘に仕立て上げられる父親は世の中にどれだけいるのだろう?
かなり特殊な経験だが、父親なんて子供に振り回されて当たり前だよな。
眼の前にいる二人の可愛い男の娘は、私の話で盛り上がっている。
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