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21本のバラの花束
カウンセリングルームではなく社長室に通される。
執務机の前にある応接セット。
初瀬社長と向き合って座る。
「午前中は誰も通さないで」
コーヒーを入れてきてくれた秘書の男性に人払いを頼む初瀬社長。
救急一般病室の個室での事を話すのかもしれない。
社長という立場から聞かれるわけにはいかない内容。
「本当に気になさらないで下さい。寝不足と過労で混乱していらっしゃったのですから、忘れて下さい」
内容が内容なだけに、話したくない。
思い出さないようにするものの、あの時の事が頭の中に浮かんできて平常心を保てなくなる。
「救命救急センターでも私の治療をして下さったそうで、ありがとうございました」
「は、はい」
救命救急センターの医師だから当然の事をしただけ。
「神宮寺先生に2度も助けられました。貴方は私の命の恩人です。一生をかけて尽くさせて下さい」
応接セットから立ち上がり執務机に何かを取りに行った初瀬社長。
またもやバラの花束を私に渡してきた。
21本の赤いバラ。
花言葉は“あなただけに尽くします”。
「俺と結婚して下さい」
2人かけソファーに座ってる私の前に跪き、真四角のジュエリーケースを開け、ダイヤがふんだんに使われた婚約指輪を私に見せてきた。
「む、む、無理です。ごめんなさい」
2度目のプロポーズ。
見た目はタイプだけど、結婚は無理だ。
「俺が医者になれば考えてくれる?編入で医学部に入れば4年で卒業できる」
「辞めて。初瀬社長が医師として独り立ちするの早くて10年後だよ。結婚対象じゃないから」
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