憧れ

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憧れ

童の心と書くものは 確かに そうだったのだろう 頑固で器用なあの人が カンッ カンッ と 革刻む ぐい ぐい と 糸を引く 小さな机に向かった背中 やたらと大きく感じてた 色相環を描いてくれ あたしに急に頼んだは 自ら染める革のため 並ぶ 彩滲み出た 容器 いつかミシンが欲しいな と 凝り性だから 呟いた 力が要るから男の仕事 頑固と誇りの入り混じり 最初に作ったペンケース どうにもこうにも気に食わぬ 俺ならもっと巧いはず まだまだこんな不格好 あたしは素敵だと思う 素直に零しただけだけど それならおまえにあげよう と もらった事が 嬉しくて ずっと ずぅっと使ってる 今も変わらず あたしの元で 彩はあの時より 褪せて 艶はあの時より 増して おまえはずっと使うから そう言い 作ってくれたもの 確かにずっと 使ったね 確かに ずっと 使ったの それが壊れるその時は 違う素材と触れた処 革は問題ないけれど 金具や合皮やプラスチック 外れ ひび割れ 流れ落つ  切れたレースは編み直す 事実 じいちゃん 直してくれた ずっと使った 免許入れ ねぇ、棄てたくない 活かしたい あなたの遺したもの 道具 ねぇ、捨てたくない 生かしたい この胸の中 育つ想い だって、子どもの時分から あの背中に 憧れた 捨てたくない 棄てたくない ものだけではない いろいろを
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