街灯

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 けれど恋人はひとりぼっちだった。ブックエンドに頬を寄せて、コン、コンと、ブックエンドの壁をしきりに叩いている。  何をしているのかと視線を走らせて、僕はあっとまた大音響の声を出しそうになった。壁の向こう側、上の住民の住居群のはしっこに、一人たたずむ小人がいる。もう一人の恋人だ。  恋人の手には銃があった。  撃ったのか。小人を。それも、下の住民を。  なんで。  けれど、もう一人の恋人は銃を捨てた。そして走り出し、ブックエンドのところまで来た。そして、コン、コンと、もう一人の恋人もまた、壁を叩き始めた。  コン、コン。ささやかな音に導かれて、二人の距離が近づいていく。一歩ずつ一歩ずつ。音はどんな壁でも、いとも簡単に乗り越える。形のないものは、強いのだ。  だがそれでも、壁はある。命あるもの、形あるものから逃れることはできない。二人の歩みは遅く、頼りない。だって何せ、小人だから。コン、コンと一歩ずつ、手のひらに感じる震動で、お互いの気配を推し測るしかない。  どうにかならないものだろうか。僕はもどかしい思いだった。
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