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佐藤修平は、普通の高校生だった。特に目立つこともなく、友達もそれほど多いわけではない。毎日、学校と家を往復するだけの平穏な日々。自分を特別だと思ったこともなければ、周囲から注目されることもなかった。修平にとって、それが一番幸せなことだった。しかし、その幸せは突然、崩れ去ることになった。
放課後、修平はいつものようにスマートフォンをいじりながら帰路を歩いていた。夕暮れの空が少しずつ暗くなり、歩道には学校帰りの生徒たちがちらほらと見える。修平もその中の一人として、無目的に歩いていた。ふと顔を上げると、前方に一人の少女が立っていた。長い銀髪、異世界から来たのかと思わせるような華やかな衣装をまとったその少女は、周りの風景と完全に調和していなかった。
「あなたが佐藤修平さんですね?」
少女は冷静に言った。その声はどこか不安げで、しかし確信に満ちていた。
修平は立ち止まり、驚きながらその少女を見つめた。
「え、えっと、はい。でも、あなたは一体…?」
「私はリリィ、異世界から来ました」
少女は静かに答えると、目を合わせたまま続けた。
「あなたに話があって、ここに来ました」
修平は言葉を失った。異世界? 今、自分が聞いたのはそんな言葉だったのか? 少し呆然としていると、リリィはさらに言葉を続けた。
「あなたが今いるこの世界は、あなたにとっては『ニセモノ』なのです」
「ニセモノ?」
修平は反射的にその言葉を繰り返した。その意味がすぐに理解できなかった。
リリィはゆっくりと頷いた。
「はい、あなたはこの世界において、存在してはいけないものなのです」
修平はその言葉に全身が凍りつくような感覚を覚えた。自分が「ニセモノ」? どういうことだってばよ? 俺はただの高校生だ。それだけで何も特別なことはない。
「つまり、俺は……間違ってこの世界にいるってこと……?」
修平は苦笑しながら言った。しかし、その苦笑いの裏には、少しの不安と混乱があった。
リリィは無表情で頷いた。
「その通りです。あなたは、本来、この世界には存在すべきではない存在なのです」
修平は頭をかきむしった。彼は何が起こっているのか全く理解できなかった。普段の自分にはあり得ないような話を、今目の前の少女がしている。この世界で「ニセモノ」だなんて、一体どういうことだ?
「でも、俺はただの高校生だぞ。どうして『ニセモノ』なんて呼ばれるんだよ?」
修平は再び問いかけた。
リリィは静かに目を閉じ、そしてゆっくりと話し始めた。
「あなたは、元々この世界にいなかった。別の世界、つまり、あなたが生まれた本当の世界から転生してきたのです。でも、その転生がうまくいかなかった。だから、あなたはこの世界において『ニセモノ』として存在している」
修平はその言葉を聞き、言葉を失った。転生? そんなことが現実に起こり得るのか? しかも、自分が転生した先が「ニセモノ」として存在している? その現実感のなさに、修平はただ立ち尽くすしかなかった。
「俺がて、転生?してきた? でも、何でそんなことが……」
修平は自分の言葉に驚き、さらに尋ねた。
「それなら、どうして俺は今ここにいるんだ?」
リリィはその質問に少しの間黙った後、答えた。
「あなたはこの世界に転生するべきではなかったのです。しかし、何かの手違いで、あなたはここに来てしまいました。今、あなたがこの世界にいることが、やがて大きな問題を引き起こす可能性がある」
「問題?」
修平は心の中で何かがひっかかるのを感じた。
「どういうことだ?」
リリィは一度深呼吸をしてから、説明を続けた。
「この世界には、定められた秩序が存在します。本来、あなたのような存在はこの世界には必要なかった。もしあなたがこの世界に留まり続けるなら、この世界のバランスが崩れ、最終的には消滅に繋がるかもしれません」
修平はその言葉にショックを受け、思わず後ずさりした。
「それって、どういう意味だよ?」
「あなたの存在自体が、この世界にとっては異常であり、その異常が積み重なることで、この世界は歪みを生じます。あなたを消し去らなければ、この世界は破壊されてしまう」
修平の体が硬直する。自分の存在が、この世界を崩壊させる? それは信じたくなかった。普通の高校生である自分が、そんな影響を与えるわけがない。だが、リリィの言葉からは逃げられなかった。
「それなら、どうすれば……?」
修平は呟いた。自分が消えることで、この世界が救われるのだろうか?
リリィはじっと修平を見つめた。
「それを知るためには、あなたが本物の自分を取り戻さなければなりません。本当の自分とは、あなたが元々いた世界でのあなたの姿。その記憶を取り戻し、その力を解放することで、あなたは本物になれる」
修平はその言葉を飲み込んだ。本物の俺?記憶を取り戻す? それができるなら、どうすればいいのか? それとも、もう遅いのだろうか。
その時、修平のスマートフォンが鳴った。画面に表示されたのは、見覚えのない番号からのメッセージだった。
『修平、覚悟シロ。お前がコノ世界にいるコトは、許さレナい』
そのメッセージを見た瞬間、修平の背筋に寒気が走った。何かが、すぐに迫っている。自分を消し去ろうとする何者かが、動き始めたのだ。
「急がなければなりません」
とリリィが言った。
「あなたには、時間がない」
修平はスマートフォンを握りしめながら、決意を新たにした。
「わからないけど、わかった。俺は戦う。俺が本物になるために、俺自身の記憶を取り戻すために」
そして、二人は歩き出した。修平の心には、これから待ち受ける試練と、迫り来る危機に立ち向かう覚悟が決まっていた。
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