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幕前
今より遥か昔のこと。
女神アリアはこの大陸に天界より御降臨され、人の娘の姿となって市井に紛れ生きたという。そのうちに一人の男と恋に落ち、いくらかの子を宿して聖母となった。
神と人、類稀なる清き誓いの結晶として生まれし子ら――彼らは皆、人の身体を持ちながら、それぞれ異なる『権能』を受け継いだ『半神』であった。
ある者は手をかざすことにより傷を癒し、病を治すことができた。
またある者はその意思で、周囲の天候を操ることができた。
聖母アリアは子らに言った。権能により人々を導きなさい。それがあなたたちの役目だと。
人間が、自らの意思で歩みゆけるその時まで。
やがて彼らはその求心力により国を築き、大陸は群雄割拠の時代となった。
彼らが人間との間に生んだ子は、次なる時代の半神としてなりかわり、権能を後世へと残していった。
薄暗い、しんとした空間で、そんな声が響いていた。
しばらくすると声は止み、天井からスポットライトの光が差す。
照らし出されたのは舞台の上、その中央で、男が言う。
「そして時は再び流れ、大陸に訪れし泰平。国を跨いで引き合うは、数奇な縁の恋人たち。恋と国との両天秤に、愛と別れの嬉々嘆々。純な二人が選ぶのは、はたしていかなる運命か――さて皆様。これよりご覧に入れますは、神の時代と人の時代、その狭間を生きた半神と人間の、もっとも新しい神話。悲喜入り交じる五幕の譚、最後まで、ご清聴願います」
雄弁な語りを終えた男は、恭しく礼をすると、堂々と舞台から退いていく。
そして今、舞台の幕がゆっくりと上がり始める。
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