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11月の日曜日の昼下がり。
都内に住む大学生の鈴木さんは、1人でぶらりと原宿の竹下通りに出掛けた。
人気のスイーツやフッション、雑貨店などが立ち並ぶ歩行者天国の通りは、多くの若者や外国人観光客で賑わっている。
その雑踏を歩いていた鈴木さんは、行き交う人混みの中で、ふと1人の男性に目が止まった。
約30㍍先から、こちらに歩いて来る男性に、不思議と視線が吸い寄せられたのだ。
その男性を見た瞬間、鈴木さんはゾッと鳥肌が立った。
男性の容姿が、自分に余りに似ていたからだ。
白のパーカに青のデニムという服装、センター分けのマッシュの髪型、平均的な身長と細身の体型、何よりその顔付きが、鏡や写真で見る自分の顔貌と瓜二つで、まさに鏡写しの存在だった。
まさかドッペルゲンガーか⁉︎ と鈴木さんは怖気を震った。
ドッペルゲンガー、それは自分ソックリの偽物、そして出会うと死を招くと伝わる怪異。
俺は死ぬ運命なのか⁉︎
と鈴木さんは思わず立ち竦んだ。雑踏の只中で立ち尽くす彼を、大勢の通行人が迷惑そうに一瞥して行き過ぎる。
恐怖で青ざめた鈴木さんに、ソックリの男性は一定の歩調で、無表情に歩み寄って来る。その機械じみた様子が、余計に不気味さを助長する。
だが遠目に見えた男性の姿が、段々と近付くにつれ、鈴木さんの緊張は次第に和らいだ。
間近に観察した男性の顔は、確かに鈴木さんに酷似しているが、微妙に違った。
9割方似ている、という感じだった。
なんだ、ただの他人の空似か、と鈴木さんは拍子抜けし、安堵して男性と擦れ違った。
その翌日、鈴木さんは交通事故に遭った。
結果、脳に重度の障害を負い、遷延性意識障害……いわゆる植物状態に陥り、一生ベッドで寝たきりになった。
9割方、死んだのだった。
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