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偶然?
噂も立たなくなり、ようやく落ち着いて仕事をしていた冷子の所へ、同期の女子が、コソコソとやってきた。
「ねぇ、私氷室さんの旦那さん見付けちゃったかも。」
「はぁ?」
いや、実際にはいない旦那さんをどこで見つけたんだろうか?
「ちょっとワイルド系だけど、ガッチリしているし高身長でいいわよねぇ。
私の付き合っている彼の会社に偶然いるだなんて!もう、びっくりよ。
ねぇ、今度一緒に飲み会でもしましょうよ。」
何故、そんなに人の事が気になるのか?いや、それより、何を持って、私の旦那さんだと思い込んでいるのか?
飲み会?その相手はいったい誰なのよ?
冷子は返事に詰まっていたが、それを了承と勘違いした同期は
『日程決まったら連絡するね~。』
自分の席に戻っていき、ニャインを送ってきた。
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変な噂も立たなくなり、ようやく落ち着いて仕事をしていた春雄の所へ、先輩の社員が、コソコソとやってきた。
「おい、お前の奥さん見付けちゃったぞ。」
「はぁ?」
いや、実際にはいない奥さんをどこで見つけたんだろうか?
「なんでも氷の女王って呼ばれてたんだって?めっちゃ美形らしいじゃないか?
俺の付き合っている彼女の会社に偶然いるだなんて驚いたぜ。
奥さんには彼女が伝えてると思うけど、今度一緒に飲み会しようぜ。」
何故、そんなに人の事が気になるのか?いや、それより、何を持って、俺の奥さんだと思い込んでいるのか?
飲み会?その相手はいったい誰なんだ?
春雄は返事に詰まっていたが、それを了承と勘違いした先輩は
『日程決まったら連絡するから、そっちも奥さんと相談しておいてくれよ。』
自分の席に戻っていき、ニャインを送ってきた。
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結婚が嘘だったとは言えない二人はなんだかフワフワしたまま、仕方がなくそれぞれの会社の人間に連れられて、飲み会に来た。
冷子が店に入ると、先に来ていた春雄と先輩が手を振っている。
「あ~、あそこだ。ほら、氷室さん、早く。」
「おっつ~、桜川、こんな特徴のある指輪だったからすぐにわかったよ。あんまり結婚指輪でこういうの選ばないもんなぁ。」
同期に手を引っ張られ、相手を見ることもはばかられた冷子は仕方なく席に着いた。
隣に並んでいる男性の指には、なんと、適当に買った自分の結婚指輪と同じものがはまっているではないか。
冷子は大学の頃に二人で遊び歩いていた時に、こういう指環、結構好き。と春雄と話したのを思い出して買った指輪をしていた。
それは普通のシンプルな結婚指輪ではなく、太めのトカゲの模様のついた指環だった。
トカゲは仲の良い人たちの象徴だし、デザインが良いよね。と二人で話したことがあったから。
どうせにせものの結婚指輪ならこの指輪で。とそれぞれに決めて買ったものだった。
相手も冷子の結婚指輪に気が付いた様子で、同時に顔をあげて相手の顔を見た。
「礼子!」
「春雄?」
同期の女子と先輩の社員は何を夫婦で驚いているんだとキョトンとして二人を見ている。
春雄が慌てて言った。
「あの・・・すみません。今日は、実は、急用が合って・・先程親戚が倒れたと連絡があったので・・・これで失礼します。」
と、冷子の手を握り、そのまま二人で店の外に走り出た。
春雄はそのままビジネスホテルに向かい、急いで部屋をとった。
「ツインの部屋空いていますか?」
そういう春雄の口に指をあてて
「ダブルで良いです。」
そう言った冷子の指は熱く火照っていた。
【了】
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