偽物の家族

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偽物の家族

 ある日のこと、珍しく凛々子を呼び止めた義母は、皮肉っぽい笑みを浮かべた。 「凛々子、お前の結婚相手が決まったわよ」  予想だにしていない言葉に目を丸くすると、義母はさらに口角を上げた。 それは凛々子に意地悪を浴びせる時の顔。 反射的に身が震える。 「結婚相手……ですか……?」  二十一歳の凛々子は、まだ大学生である。 結婚するには若すぎるし、何より水面下で自分の相手を決められていたことに驚く。 「えぇ」 「一体、誰と……?」  義母は「お前にピッタリの相手よ」と言う。 すぐに絶対によい相手でないことは理解した。 彼女が大嫌いな凛々子に、よい相手を選ぶはずがない。 凛々子はオホホと愉快そうに笑う義母を、呆然と見つめた。  大木(おおき)凛々子は、五歳の頃に母親を亡くした。 父は母のことをとても愛していたものの、五年後、当時父の秘書であった義母の真理子(まりこ)と結婚した。 母を愛しているから再婚なんてしない、と言っていた父だが、真理子に妊娠を伝えられたことで、結婚せざるを得なくなってしまったのだ。  初めは優しかった義母。 だが、妹の美波(みなみ)が産まれてから、人が変わったように、凛々子に冷たくなり、父のいないところで酷く当たるようになった。
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