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あれは忘れもしない、美波が産まれた翌日のことだ。
真理子の母である義理の祖母に連れられて義母の病室に行った時のこと、生後間もない赤ん坊の姿に感激し、ベッドを覗き込みその頬に触れようとした凛々子。
「汚い手で触らないで!」
瞬時手を引っ込めた凛々子の前で、真理子が美波を優しく抱える。
――今、誰に何と言ったの……?
呆然と真理子を見つめると、義母はまるで汚物を見るような目を向けてきた。
「私の子に触れないで。その汚い手で今後この子に触れることは許しません」
まだ幼い凛々子は自分に向けられた残酷な言葉を理解できず、頭の中はなぜ?と疑問だらけ。
ただ、心は傷付き涙が零れた。
すると、真理子はますます顔を歪めて、「泣くな!」と言う。
「その顔で泣かないで、私はお前の顔が大嫌いなのよ!」
真理子は目尻を険しく吊り上げて、「二度と私の前で泣くな」と繰り返した。
昨日までは優しかった真理子。
一体自分が何をしたのかと、後ろに立つ義理の祖母に助けを求めたく見つめると、彼女はばつの悪い顔をして、目を伏せた。
義理の祖母はというと、妊娠中の真理子を気遣い、よく凛々子の遊び相手になってくれていた。
だが、可愛がってくれていると思っていた彼女も、凛々子のことが嫌いなのだと察して、病室を飛び出してしまう。
すると病院の出入り口扉のところで父の秘書とぶつかり、父に抱きあげられた。
なぜ泣いているのかと、父に尋ねられたが、頭の中が混乱した状態で、何も説明できなかった。
再び父と共に真理子の病室に行くことになった凛々子だが、彼女は同一人物とは思えぬほど、これまで知っている義母だった。
悪い夢だったのかと思いたかったが、父の見えないところで向けてくる真理子の目は憎悪が混じっていて、現実だと知る。
それからだ。
凛々子の孤独が始まったのは――。
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