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冷遇されていた凛々子だが、父や周囲の目があるため、学校には通わせてもらえたので、大学一、二年で就活の準備を始めた。
凛々子の通う女子大は、幼等部からエスカレーター式に進学できるお嬢様学校で周囲は裕福な家の子がほとんど。
そのため、友人たちの内で就活に力を入れる者はあまりいなかったが、凛々子は積極的にインターシップを行い、三年になる頃には就職先の目星を付けていた。
しかし、運命は残酷だ。
まさか自分の縁談が整えられているとは思いもしない。
義母に結婚相手が決まったと言われ、自分の意識がどこか遠いところへ行き、色を失ったように感じた。
「お相手は一色工業の一色社長よ。あなたもよくご存知でしょう?」
一色工業といえば、大手工業メーカーで誰もが知っている製品を世に送り出している会社だ。
だが、その社長は父と変わらないほどの年齢で、結婚と離婚を繰り返しており、かなりの女好きと有名で、つい先日も彼の離婚のニュースを目にしたばかり。
初婚でまだ若い凛々子にとって、あまりにも酷い相手で言葉を失う。
目の前の真理子の嬉しそうな表情が霞んでしまうほどに、ショックを受けていると、後ろから「よかったわね、お姉様」と、いう声がした。
「一色社長は若い女性が好きだから、甘えれば何でも買ってくれんじゃない?羨ましいわ」
フフッと楽しそうに笑う美波が真理子の横に立ち、凛々子を愉快そうに見つめた。
それから、追い打ちをかけるように「あぁでも、あの方とってもふくよかで脂がすごいし、私は受け入れられそうにないわ」と言う。
凛々子は一色を直接目にしたことはないが、彼女の話からどのような容姿なのかは容易く想像ができる。
父と義母の関係を見て、恋愛に憧れなど持たずに生きてはきたが、さすがに酷い。
「あちらはすぐにでも結婚していいと仰ってくださっているわ」
「そうなの!素敵ね!」
二人が愉快そうに話すのを呆然と見つめる。
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