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前編
朝の天気予報では晴れだった。
それなのに、お昼過ぎから暗くなってきた空は、授業が終わる頃にはとうとう雨粒を落とし始めていた。
早く学校を出ればまだ小雨のときに帰れただろうけど、日直だったため少し残っている間に雨は強くなってしまった。
ほとんどの生徒が帰って静かな昇降口で、雨の降る音だけが響いている。
私は雨の日が好きじゃない。
その一番の理由は私の名前にある。
雨宮ちとせ。
それが私の名前。
雨がつく苗字のせいで、小学生のときなどは遠足や運動会といった行事のときに雨が降ると、クラスメートのやんちゃな子に雨女と言われたからだ。
雨がつく苗字の人なら同じ経験をしたことは多いと思う。
冗談交じりに言われた言葉だったけれど、何度も言われるとあまりいい気分にはならない。
さすがに高校生になった今ではそんなことを言う人はいないけれど、おかげで今でも雨が降ると人一倍憂うつな気分になる。
暗い空を見つめていても、雨が上がる気配はない。
はあ、とため息が零れそうになったとき。
「雨宮さんも傘忘れたの?」
後ろから声をかけられて振り返ると、同じクラスの藤澤君がいた。
「藤澤君。朝の天気予報では雨って言ってなかったから」
「俺も同じ」
外に視線を向けたまま近づいてきた藤澤君の手に傘はなく、私の隣で足を止めた。
何となく一緒に空を見上げる。
「この雨の中を傘も差さずに帰ったら風邪引きそうだね」
「うん、おすすめしないね」
私の言葉に藤澤君も同意する。
明日も学校なので風邪は遠慮したい。
二人で空を見上げたまま会話が途切れて、雨音だけが響いた。
藤澤君とは今年初めて同じクラスになった。
そういえば、あまり話したことはないかもしれない。
横目で隣を伺えば、まっすぐ空を見ている。
藤澤君は、どこかのんびりとした雰囲気でつかみどころがないタイプ。
何を考えているのかは窺い知れないけれど、無言でもあまり気にならなかった。
それはそうと、どうやって帰ろう。
ああ、本当に雨の日は憂うつだ。
「……雨なんて嫌い」
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