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やる気のない教育係と犬系後輩
「初めまして! 今日からお世話になります、阿山コフィンです!」
どこか美味しそうな名前の新人は、煙草の煙をものともせずに元気よく笑顔で自己紹介をした。
応接室にいるのは新人を除いて3人の男と2人の女。新人を連れてきた人事を担当する女以外は、誰もが口から煙草の煙を吐き出している。
興味なさそうに煙草を吸い続ける者、呆然と新人を眺めて無意識に煙を吐き出す者……。
新人はニコニコと笑みを浮かべたまま、誰かが反応するのを待っているようだった。
「では笹倉さん。あとはお願いします」
新人の隣に立っていた真っ赤な口紅の堅物眼鏡は、淡々と俺に向かってそう言った。
「は? おいちょっと待て、なんで俺なんだよ!」
用事は終わったと応接室を出て行こうとする背中を呼び止める。
俺はツカツカと人事担当に歩み寄り、紫煙と一緒に抗議の言葉を吐き出した。
「お前は何か? 俺にこいつの新人教育でもしろってか?」
「そうですが」
目の前で堂々と鼻をつまみながら返された。
「おいおいおい、俺がそんなことするわけねぇだろ」
「するんです。でなければ他に誰がやるんですか」
「俺以外にも人間がいんだろうが!」
「どこにです?」
「ここに……ってあいつら!」
振り返れば、さっきまで煙たかったはずの部屋はすっかり視界がクリアになっていた。
どいつもこいつも裏口から逃げ出しやがって。
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