603人が本棚に入れています
本棚に追加
「大丈夫?シオちゃん」
キッチンでぐす、と鼻をすすっていると、女の先輩が声をかけてくれる。
いい年して仕事中に泣くなんて恥ずかしくて、慌てて涙を拭った。
「麻里子さん…すみません…」
「いいのいいの。お客さんも落ち着いてきたし、少し休憩しな?」
ポンポンと優しく頭を撫でられ、ほっとする。
女の人なら、話すのも触られるのも平気なのに…なんで相手が男の人になると、上手くできないんだろう。
昔のことが原因だとは分かっているけど、なんだか年々酷くなっている気がする。
他のみんなみたいに、性別関係なく普通に会話ができるようになりたい。男性客にびくびくしたくない。
……恋だって、本当はしたいのに…
性格に似合わないこの顔と、大きすぎる胸が全て邪魔をする。できることなら、こんなの、全部、捨ててしまいたい。
どんより、とネガティブモード全開。
そんな私を見かねて、私が男の人が苦手なのを知っている麻里子さんが提案してくれる。
「…少し粗治療だけど…今夜のいつものお隣との会、来てみる?」
「…え?」
「場慣れ程度で、気楽に座ってればいいし」
(お隣との会って…例の…)
人が賑わう街中のこのカフェの隣には、カリスマ美容師ばかりという人気美容室がある。
そこの店長とうちの店長は昔からの仲で、その流れで従業員同士も交流があるのだけど…
「ちょっとチャラいのは否めないけど…仕事に対しては真面目だし、職業柄女の子にも慣れてるし、コミュ力高いし、優しいよ。本気の恋愛相手としてはおすすめしないけど…」
最後の方は苦笑いしながら「どうする?」と私の答えを待ってくれる。
(どうしよう…。でも、男の人と飲み会なんて、私には…)
最初のコメントを投稿しよう!