罠①

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「大丈夫?シオちゃん」 キッチンでぐす、と鼻をすすっていると、女の先輩が声をかけてくれる。 いい年して仕事中に泣くなんて恥ずかしくて、慌てて涙を拭った。 「麻里子さん…すみません…」 「いいのいいの。お客さんも落ち着いてきたし、少し休憩しな?」 ポンポンと優しく頭を撫でられ、ほっとする。 女の人なら、話すのも触られるのも平気なのに…なんで相手が男の人になると、上手くできないんだろう。 昔のことが原因だとは分かっているけど、なんだか年々酷くなっている気がする。 他のみんなみたいに、性別関係なく普通に会話ができるようになりたい。男性客にびくびくしたくない。 ……恋だって、本当はしたいのに… 性格に似合わないこの顔と、大きすぎる胸が全て邪魔をする。できることなら、こんなの、全部、捨ててしまいたい。 どんより、とネガティブモード全開。 そんな私を見かねて、私が男の人が苦手なのを知っている麻里子さんが提案してくれる。 「…少し粗治療だけど…今夜のいつものお隣との会、来てみる?」 「…え?」 「場慣れ程度で、気楽に座ってればいいし」 (お隣との会って…例の…) 人が賑わう街中のこのカフェの隣には、カリスマ美容師ばかりという人気美容室がある。 そこの店長とうちの店長は昔からの仲で、その流れで従業員同士も交流があるのだけど… 「ちょっとチャラいのは否めないけど…仕事に対しては真面目だし、職業柄女の子にも慣れてるし、コミュ力高いし、優しいよ。本気の恋愛相手としてはおすすめしないけど…」 最後の方は苦笑いしながら「どうする?」と私の答えを待ってくれる。 (どうしよう…。でも、男の人と飲み会なんて、私には…)
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