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そんな2人の会話を聞いていただけの私に、大ちゃんが視線を向ける。
「莉子、行ってきなよ」
そう言われて、どきりとする。
「…え…」
「何かきっかけでもないと、ずっとこのままだよ?」
「で、でも…」
「大丈夫。全員僕みたいに女友達だと思えばいいんだって」
「…それは無理だよ」
無茶苦茶な意見に肩を落とすと、大ちゃんは「…まぁ、冗談はさておき」と続けた。
「何かあったら僕が迎えに行ってあげる」
「ほんと…?」
そう言う大ちゃんは、よく彼氏のフリをしてナンパ男を撃退してくれる。
大ちゃんは可愛い顔してどこか圧があるというか…影があるというか…。引き寄せられるような不思議な雰囲気がある。だからか、男の人にも女の人にもとんでもなくモテる。もちろん女の人に言い寄られても大ちゃんは見向きもしないけど。
「いざという時はノンケ彼氏のふりして牽制すればいいし?」
心強い言葉に、少しだけ気持ちが傾く。
そんな私を、大ちゃんはもう一押し、というように真っ直ぐ見つめた。
「───恋、したいんでしょ?」
その言葉が決め手だった。
(…そうだ。私だって、私だって…っ)
ぎゅ、と拳を握り締め、顔を上げる。
むんっと力強く鼻から息を吐き出した。
「っ汐野莉子、行きます…!」
人生で最大の決断をした瞬間だった。
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