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1 赤津正樹と和田哲平
赤津正樹は新人の和田哲平を引き連れて森の中を歩いていた。気温は35度を超えていたが、町よりもいくぶん涼しく感じられた。
人間の侵入を警戒するかのように、虫の鳴き声があらゆる場所から聞こえていた。被っているカウボーイハットを上から押さえながら、透き通った水質の沢を軽快に飛び越えた。
目指すは洞窟。過去に何人もの町民を追い込んで銃殺している実績のある場所だった。
「訓練所を卒業したから警備隊の仲間入りというわけではないからな。人を殺してようやく一人前だ」赤津正樹は正面を向きながら、背後にいる新人に助言していた。
「はい!」和田哲平は先輩が背負っている年季の入ったライフルを見つめながら即座に返事をした。
「デッドウィークが近づいてくると、一足先に町を抜け出して森の中に隠れる奴が出てくる。見つけたら問答無用で撃ち殺していいから」
「はい!」和田哲平は威勢よく返事をしていたが、もう飽きるほど同じ話を聞かされていた。この先輩隊員は頭がイカれているのではないだろうかと疑ってしまうほどだった。山深く分け入ったが「ごめん、帰り道を忘れたわ」と言われたらどうしたらいいのだろうと、不安が消えないのだった。
「あのさ……名前なんだっけ?」
「和田哲平です!」
「そうそう、哲平君さ、もう少し声量を抑えていいよ。相手に気づかれてしまう」
「……はい、すみません。デッドウィークの期間中は何人くらいが逃げるんですか?」
「バラバラだよ。0人の年もあれば10人の年もある。去年は何人だっけな……ちょっと思い出せない」
「その人達を殺したら、デッドウィークの死者数にカウントされるんですよね」
「もちろん」
「森に隠れているのが他の町の人で、その人を殺してしまった場合はどうなるんですか?」
「その町の警備隊に連絡して遺体を引き取ってもらうか、そのまま野生動物のエサにするかのどちらかだ。俺たちが心配するようなことではない」
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