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武尾町は缶詰の製造が主要な産業であり、周辺の町に売ることで財源を上乗せしていた。かつて工場はオートメーション化されていたが、世界的なエネルギー不足に対応してあらゆる工程をマンパワーで行なっている。最終過程における熱湯消毒の時しか燃料を使っていない状態だった。ベルトコンベアでさえ手動である。
武尾町の住民の大部分が缶詰工場で働いているが、そこで働くことがステータスというわけではなく、暇つぶし程度の扱いになっていた。原材料をナイフでカットする作業や、缶シーラーで密封する作業は人力であるため事故が多く、指を欠損する従業員が後を絶たない。安い給料に見合わない被害と思えるが、長寿が約束された人類にとっての最大の敵は「暇」である。それを克服するには労働が最適であるため、労働環境の改善を求める者は意外に少なかった。
加森夫妻が住み始めた家の、道路を挟んで向かい側に南出夫妻は暮らしていた。南出智也は面倒見のいい性格で、町に越してきて右も左も分からない加森家をいつも気にかけていた。しかし妻の南出彩乃は、加森家と親しい関係を築くことに強く反対していた。どんな素性の人間なのか分からないのに接近するのは危険という判断だった。
「去年あの家にいた戸倉さんみたいに、あっさり死んでしまうかもしれないし、1年目は距離を置いて様子を見るのがいいよ」と夫に助言していた。
「親しくしなかったから、戸倉さんたちは殺されてしまったんだ。今年はうちの町内から死者を出したくない。悪い流れを止めたい」
「心にも思ってないくせに」南出彩乃は苦笑いを浮かべていた。
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