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4 佐田秀介
缶詰が入ったダンボールを佐田秀介は大型トラックの荷台に積み込んでいた。1箱持つだけでも息切れしそうな重量のダンボールを、2つ重ねて運んでいた。トラック運転手は運転することだけが仕事ではなく、荷物を積むのも大事な仕事である。
「無理すると腰を悪くするぞ」という周囲のアドバイスを無視して、淡々と作業を続けていた。筋肉が悲鳴を上げているのが気持ちよかった。働き始めた頃よりもさらに筋肉は肥大し、鏡の前でうっとりしながら自分の体を見つめる時間が増えていた。
佐田秀介は武尾町に移り住む前は、他山(たざん)町で暮らしていた。他山町は町民同士が肉体を酷使するゲームで競い合い、下位の者から順番に処刑されるというルールを採用しており、全国的に知名度の高い町である。ゲームの模様を世界に向けて配信し、その収益を財源にしていた。比較的豊かな町であり、他の町と同じように配給制だが食料品は充実しており、プロテインなどを貰うことができた。
ゲームは単純明快で、登山、水泳、マラソンなど多岐にわたり、生き残っている町民は超人的な身体能力の保持者ばかりである。全国からフィジカルに自信のある屈強な人間が集まり、上位のメンバーは固定化されていた。町民の99%以上が男性という歪な男女比率になるが、視聴者に最も人気のある人達は、町に少ししかいない女性達だった。
佐田秀介はその中の1人に恋をして告白したが撃沈。ストイックに生きている彼女に情熱が伝わることはなかった。
他山町に住む限り、自分はきっと数百年は生きられるだろう。佐田秀介はそう信じて日々トレーニングに打ち込み、新参者を打ち負かしてきた。
しかし女性との出会いは皆無に近く、道を歩いていても汗臭いマッチョな男としかすれ違わないのである。同性同士の性行為が当たり前であり、佐田秀介は何人もの男と寝てきた。それでも心の中にはいつも女性に対する熱い思いがあり、鎮火することはなかった。
「このままいても異性との交際は不可能」と判断し他山町を出る決意を固めたのだった。次に住む町として選んだのが武尾町だった。運や頭脳が重要な町を消去法で外していくと、最後に残ったのがそこだった。
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