4人が本棚に入れています
本棚に追加
本来は数人でやる積載の仕事を佐田秀介は1人でやった。それでいて掛かる時間は数人でやるのと同等になっていた。周囲は目を丸くしながら鉄人を観察していた。
そろそろ大丈夫だろう。佐田秀介はそう思いながら工場長の部屋をノックした。
「今日はお願いがあってきました」
「な、なに?」工場長は佐田秀介の屈強な肉体を見て唾を飲み込んでいた。
「僕は1人で2人分の労力を担っている自信があります」
「確かに頑張っているね。私の耳にもあなたのことは伝わっているよ」
「それなら話は早いです。僕のおかげで節約された人件費を、僕の給料に上乗せしてくれませんか?」
「は? 無理だよ。人件費の予算は毎年一緒なんだ」申し出は半笑いで却下されるのだった。
佐田秀介は工場長の胸ぐらを掴んで片手で持ち上げ「次のデッドウィークでどうなっても知りませんよ?」と脅した。
「きゅ、給料をすぐにアップすることはできないが、裏稼業を斡旋することはできる」
「なんですか?」佐田秀介は手を放した。
「他言無用だぞ」工場長は襟元を気にしていた。
それは周辺の町に缶詰を運び終わって空になったトラックの荷台に、遺体を乗せて戻ってくるというものだった。年中どこかの町で死体が生み出されている。その死体を缶詰工場に運ぶという単純な仕事だった。
「……もしかして、人間の死肉を加工して缶詰にしているんですか?」佐田秀介は肝を潰していた。
「色々な動物の肉を使っているよ。人肉はその中の1つ。隠し味程度さ。最近始めたんだよ」
脂っこい工場長の口から飛び出した衝撃的な発言に佐田秀介はたじろいだが、貰える金額を聞くとすぐに握手を交わして契約を成立させた。
「そんなに金を貯めてどうするんだ? 使い道がないだろ。買えるものなんて限られているし」
「筋肉とお金は一緒ですよ。無いよりある方が良いじゃないですか」
「使い道がないなら稼ぐだけ時間の無駄だろ?」
「時間の無駄なんて言葉は寿命のある人間が使うべきであって、エリクサを飲んでいる僕たちには関係ないでしょ」
「まあね……」
「明日から早速死体運びをやります」
「あまり大きな声で言うな」工場長は周囲を気にしていた。
最初のコメントを投稿しよう!