4 佐田秀介

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 町の外を移動できるのは配送業や警備隊など一部の許可証を持った人間だけである。腕に埋め込まれたマイクロチップの情報は申請済みであるため、ゲートに近づくと自動的に開くようになっていた。  町から町に移動する際に、国道を走っている自家用車は皆無に近く、他のトラックや警備隊の車と1回すれ違えばいいくらいだった。大半が顔見知りで、クラクションやパッシングで挨拶をするのが礼儀になっているが、互いの名前も知らない。  エリクサの普及と、それに付随する世界的人口爆発、及びエネルギー不足によって、世界規模で人口調整が実施され、生活圏はコンパクトになっていった。  町はフェンスやコンクリートの壁で囲まれているのが一般的で、町と町の間には朽ち果てた旧市街と整然とした田園風景が広がっている。遠い昔に建てられた住宅は潰れ、高層ビルは横倒しになっているが、そんなディストピアの中に全自動の農耕機械によって管理されている田畑が広がっていた。  そこで収穫された作物は各町に少量ずつ分配され、残りの大部分は政令指定都市に送られるようになっているが、1つの政令指定都市で1日に廃棄される食料品だけで、武尾町の住民を数週間は養えた。佐田秀介が運んでいる武尾町の缶詰は各町にとって貴重な食料品だったが、政令指定都市ではペットのエサとして扱われていた。  車内では旧市街で入手した音楽を流していた。250年以上前に作られた曲ばかりである。懐かしい曲が好きというわけではない。それしかないのである。エリクサが普及し人間は永遠の命を手に入れたはずなのに、芸術作品は減少していった。ほとんどの町が死の選別を毎年実施する。1年毎に死を覚悟する生活を送ると、人間は創作に時間を費やすことはなくなるのだった。  車を走らせること50分。いつも立ち寄る場所がある。旧市街の闇市だ。苔や蔦が生い茂っている横倒しの高層タワーの中にそれはあった。トラックを横付けすると佐田秀介は慣れた足取りで中に入った。  かつての非常階段が商品棚として再利用され、レコード、小説、漫画などが所狭しと並べられている。佐田秀介は入店するなり目に留まる商品を次々とカゴに入れた。 「まいど」店主は売り物の漫画を読みながら挨拶をした。 「色々と増えてますね。でもちょっと値段が高くないですか?」佐田秀介は好きな作家の作品を手にとると興奮気味に言った。 「こっちは命がけで収集してるんだ。高くて当然だ。あんただってどうせ転売するんだろ?」 「そうですけど」佐田秀介は笑って誤魔化した。
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