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買ったばかりの曲を車内で流しながら、目的地である福運町に到着した時、武尾町を出発してから2時間が経過していた。窓から腕を出し、認証機器に手の甲を向けるとゲートは自動的に開く。町の中を自由に走れるわけではなく、自動運転に切り替わり倉庫に誘導された。
佐田秀介は福運町が嫌いだった。生死をクジで決めるという町のルールが生理的に受け付けないのである。信心深い住民が多く、彼らから漂う独善的な雰囲気に虫酸が走った。
「いつもご苦労さまです」
倉庫から出てきた男はそう言って一礼すると、トラックの前方に棒状の物をかざした。そこから発せられる電波によってトラックは微速でナビゲートされるのだった。佐田秀介は動いているトラックの運転席から飛び降りると体を伸ばした。
「担当者、変わったんですか?」佐田秀介はあくびをしながら男に話しかけた。
「はい。前任者はクジでハズレを引いたので」
「あらら、死んじゃったんですか」
「そうですね」男は前を向いたまま答えた。
「あ、フォークリフト使わないでください。僕が手作業で下ろしますので」
「ど、どうしてですか?」男は驚きながら振り返った。
「体を酷使するのが好きなんです」
「……変わってますね」
「よく言われます」
男はしばらく黙ると佐田秀介の顔を凝視し、何かを思い出したかのように口を開いた。
「どこかで見たことあると思ったんですけど、他山町に住んでいませんでしたか?」
「はい」佐田秀介は得意げな顔で答えた。
「やっぱり! 僕は他山町の放送が好きで結構観てたんです。いつも上位に入ってましたよね。佐田さんですね、佐田秀介さん。名前を思い出しました」
「そうです。割と上位でした」
「嬉しいです。こんな所で出会えるなんて。今は武尾町にお住みなんですね」
「はい」
「武尾町は物足りないんじゃないですか?」
「そんなことないですよ。殺るか殺られるかというスリル満点の町ですよ」
トラックがようやく停止すると、佐田秀介は荷台のドアを開けて中に飛び乗り、ダンボールを次々と下ろした。動きに無駄はなく、一定のリズムでダンボールの山を作っていった。男は呆気にとられた様子で眺めていた。
「あれも自分で乗せるんですか?」男は周囲を気にしながら小声で訊ねた。
「あれってなんですか?」佐田秀介はダンボールの隙間から顔を出した。
「遺体です。袋に入ったまま冷凍されているんですけど、かなり重いですよ。今回は全部で37体あります」
「……はい。僕が運びます」
ダンボールを全て搬出すると、今度は凍った遺体を荷台に並べていった。火照った体には冷たくて気持ちが良い。最初はお姫様抱っこをして壊れ物を扱うようにしていたが、後半は肩に担いで放り投げていた。
「トラックに冷凍設備とか付いてないんですけど、町に着くまでに解けませんかね?」佐田秀介は男に質問していた。
「どうでしょうね? 解ける心配よりも、事故らない心配のほうが大事だと思いますよ。なんせクジ運のない人たちを大量に運ぶわけですから」
「ははは、それは言えてますね」
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