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最後の1体を荷台に乗せるとドアを閉めてロックした。今までに感じたことのない疲労感に酔いしれていた。肉体は痛めつけるほどに成長する。苦痛と喜びは佐田秀介の中でいつしか同義になっていた。
「この町に住んで長いんですか?」佐田秀介は運転席に乗り込む前に訊いた。
「来年で90年になります」
「すごい。強運ですね」
「なんとか生き残ってますけど、抽選日が近づいてくるとやっぱり生きた心地がしませんよ。でも生き残った時の満足感は何事にも代えがたいです。もう1年、人生を楽しめるんだと思うと大切に時間を使うようになります。同時にエネルギッシュになれるんです」男は目を輝かせていた。
「なるほど。素晴らしい考えだと思います」
佐田秀介は白々しい言葉を言い放ってから運転席に乗り込むと、窓を全開にして男に手を振った。自動運転のままであり、ハンドルは勝手に回転していた。
平凡な町並みは武尾町と一緒だったが、明るい表情の通行人が多く、デッドウィークが終わった後の武尾町とは決定的に違っていた。
武尾町の場合は道路に腐敗した死体が転がり、血を洗い流さなければ日常生活には戻れない。殺し合いを制した町民の顔には疲労が色濃く残り、家族や知人を殺された者の目には来年に向けて復讐を誓う怨恨が宿っている。
トラックは福運町を出ると自動運転が解除され、ハンドルを慌てて握りしめた。ムーディーな曲を流してリラックスしながら運転していた。
明日は政令指定都市への配送である。この仕事に就いてからもっとも苦手な時間だった。政令指定都市はエリクサを独占的に製造・販売しているのに、自分たちはそれを飲まずに老いて死んでいく。あのシワシワになった人たちを目にするのが恐怖でしかなかった。髪は白くなり、声はザラつき、歩く速度は遅い。なぜ彼らはみっともない姿になることを選ぶのか。自分には一生理解できないだろうなと思っていた。
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