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赤津正樹が銃を構えながら洞窟の前に立つと、和田哲平も動作を真似て銃を構えた。懐中電灯で中を照らすと、入り口から数メートルの所に、横たわっている男の足が見えた。片方の靴が脱げて泥だらけになっている。
「だ、誰かいます」和田哲平は引き金に指を乗せてにじり寄った。
「撃っていいよ」
「……はい」和田哲平は動揺を顔に出さないように努めながら懐中電灯で男の上半身を照らし、頭に狙いを定めて引き金を引いた。銃声に驚いた鳥たちが一斉に木から飛び立っていった。男の顔は恐怖に引きつっていたが逃げる様子はない。
「わざと外したのか?」赤津正樹は嫌味っぽく言った。
「違います……」和田哲平の指は震え、顔は青白くなっていた。
「そんなんでさ、今までよくこの町で生き残ってこれたな」
「もう一発、撃ちます!」
「もういいよ。弾の無駄になる。相手は手負いみたいだから素手で殺せ」
赤津正樹は銃口を下げると男に接近し、顔面を蹴り上げた。男は目をパチクリさせながら鼻と口から血を吹き出していた。
「ほら、お前もやってみろ。筆おろしだ」
「はい」和田哲平は命じられるままに男の顔面を蹴り上げた。ブーツの先が男の下顎にクリーンヒットすると、折れた前歯が勢いよく口から飛び出した。男はまったくの無抵抗で、死を受け入れた家畜みたいに目を潤ませていた。
赤津正樹は自分が非情な人間と思われても構わなかった。これくらいできなければ警備隊としての職務を遂行することなど不可能だからである。デッドウィーク期間中に町から逃げ出す人々はごく普通の町民である。幼い子供の手を引く親であっても、その頭に銃弾を撃ち込まなければいけない。これくらいで狼狽えていては何もできないのだ。
「……やめて下さい」洞窟の奥から女の涙声が響いた。
「誰だ」赤津正樹はとっさに銃を構えた。探知機には1人しかいなかったはず。和田哲平が懐中電灯で洞窟の奥を照らすと、手のひらを外に向けて眩しそうな顔をしている女が立っていた。
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