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「……見逃して下さい」闇の中にすすり泣きが反響していた。
「そういうわけにはいかないんだよ」赤津正樹は哀れむような声を出していた。
「他の町に行きたいんです」
「最低10年暮せば転出できるだろ。なぜそれを待たない? 届け出しないで他の町に行っても捕まるだけだぞ」
「10年も、この町で生き残れる自信はありません……」
「町で生き残るよりも森を抜けるほうがよっぽど難しいんだけどね」
「見逃してください!」
「駄目。ところであの男は誰だ?」赤津正樹は入り口付近で横たわっている男を指差した。
逆光のせいで女からは警備員の顔を確認できなかったが、職業と声で同じ町内に住む赤津正樹であることは特定されていた。
「赤津さん……見逃してください。同じ町内会じゃないですか」女は懇願した。
「あの男が誰だと訊いているんだ」
「ブローカーです。他の町に連れて行ってくれる予定だったんですけど、怪我をしたんです」
「間抜けな奴だな」赤津正樹が笑うと和田哲平も釣られて笑っていた。
「……見逃して下さい。町民が1人減ったなら、それでいいじゃないですか」
「今まで同じセリフを何度も聞いてきたよ。そんなことよりあなたのマイクロチップが探知機に反応していないんだけど、無効化したの?」
「……はい」
「どうやって?」
「彼に頼みました」女はブローカーの男を震えながら指した。
「ふ〜ん」赤津正樹はその方法を探るために男に最接近するが、既に息絶えていた。まだ温かい男の体を服の上からまさぐり、マイクロチップを無効化するための道具を所持しているかどうかを調べたが、何も出てくることはなかった。
「どうやったか覚えてる?」
「いいえ……私からは見えない場所で作業していたので」女は正直に話していた。それ以外に生き残るための方法はないと思っていた。
「そいつは他の住民にも同じことをやったと言ってた?」
「そこまでは知りません」
「そうか。ありがとう」
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