2 赤津理沙と加森聖奈

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「暑いですね〜」  その声だけで加森聖奈が背後にいることが分かった。赤津理沙が振り向くと加森聖奈は金髪を手で掻き上げながら列に割り込んでくるのだった。すぐ後ろに並んでいた人はムッとした顔をしていたが抗議せずに横を向いていた。デッドウィークが近いため、無駄な争いは避けるのが吉であることを町民の誰もが分かっていた。 「ホント、嫌になります」  赤津理沙の言葉は気温ではなく、加森聖奈に向けてのもの。隣人であるため親密な態度をとっていたが、本来なら関わりたくもない人種である。話をすれば悪い人ではないのだが、ルーズなのが心底イライラするのだった。庭の手入れやゴミ出しの仕方も見ているだけでストレスになった。 「武器とかって用意しているんですか?」加森聖奈は小首をかしげながら質問していた。 「デッドウィーク用に購入したことはないですね。元からあるものを利用する感じです。包丁とか、子供が使っているバットとか、そんな感じですね」 「旦那さんは仕事で銃を使ってますよね?」加森聖奈はかわいらしい声を出していた。 「あれは境域の警備隊員に支給されている銃なので、家どころか町に持ち込むことすらできないです。勝手に持ち帰ると罰せられます」 「そうなんですね。護身用に銃を買わないんですか?」 「高くて買えないですよ。持ってるんですか?」 「秘密です」  どうせブラフだろうと赤津理沙は思っていた。弾の入っていない銃を構えて撃つふりをするのならまだしも、持っているふりをして心の中で銃を構えている加森聖奈が哀れに見えて仕方なかった。まともな職に就いていない加森家が銃を購入する余裕なんてあるわけがないのだ。数年分のクーポンを闇市で売りさばいてようやく買える代物である。しかしそんなことをすれば餓死するだけ。エリクサを飲んでも、食事をしなければ人間なんて簡単に死んでしまう。  トラックからは次々と食料品が降ろされてクーポンと交換されていったが、加森聖奈以外に列を乱す者はいなく秩序が保たれていた。来週から互いに殺し合うかもしれないのに、穏やかな時間が流れていた。それこそがこの町で生き残るための効果的な戦術である。  赤津理沙の順番が回ってくると、配給係の橋本英世に家族の人数分のクーポンを手渡した。橋本英世は激務と猛暑により全身から汗が吹き出し、今にも倒れそうだったが、赤津理沙の顔を見ると隣人であることに気付き笑顔で対応した。もちろんサービスなど期待できるはずもなく、米、野菜、缶詰を機械的に袋に詰めて渡してくるだけである。
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