おねえ、ちゃん

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 私には娘がいる。一人は社会人で、一人は小学生。年の差はあるものの、仲は良かった。……はずだった。その異変に気がついたのは、何時だったろうか。上の娘は就職すると忙しくなり、家に帰ってくるのが遅くなった。下の娘はお姉ちゃんっ子だったからか、いつも退屈そうに寂しそうに一人で遊んでいた。そんな娘と遊びたい気持ちは山々だったが、シングルマザーになった手前、遊んであげれる暇はなかった。そのせいか、下の娘は学校から帰ると、部屋に引きこもるようになった。  ……その日は、たまたま仕事がなかった。私は娘と遊ぼうと思って部屋に向かった。声をかけようとドアに近づいた時、私は中から話し声が聞こえることに気がついて、人形遊びでもしているのかなと暫く聴くことにした。 「……それでね、職を失ったお姉ちゃんは、私のもとに帰ってきたの。そうすれば、私と遊んでくれると思ったの。でも、仕事がなくなったお姉ちゃんは、血眼になって仕事を探し始めたの。そのせいで、もっと遊ぶ時間がなくなちゃった。だからね、寂しかった私はお姉ちゃんを、部屋につれてきて、寝るように言ったの。お姉ちゃんは疲れてたからね、すぐ寝ちゃった。だから私は寝てるお姉ちゃんに悪戯を仕掛けたの。仕上がりを見て私は大満足。でもね、最後の仕上げをしたときに、お姉ちゃんが目を覚ましちゃったの。でも、あと一つだったから、私は構わずもう一つの仕上げをしたの。お姉ちゃんはね、泣くほどに喜んでくれた。悪戯をしたのにね。それからは、お姉ちゃんと私は何時でもどこでも一緒なの。ずっとね。あ、でもお姉ちゃんは歩けなくなちゃったみたいで、部屋から出れなかったから、お風呂とかトイレとかは離れちゃうけど。それ以外はずっと一緒。だからね、私は寂しくなくなって、お姉ちゃんと仲良く暮らしたの。」 始めは微笑ましく聴いていた話は、段々雲行きが怪しくなっていき、そこまで聴いた私は逃げるようにリビングに戻った。その日のことは、ほとんど覚えていない。ただ、食事を食べに来た娘が、 「お母さん、大丈夫?」 と訊いてきたことだけは覚えている。頭の中では、娘の話がぐるぐると繰り返されていた。その日から、私は下の娘を注意深く観察するようになった。  その悲劇は突然襲いかかった。その日は仕事の関係で戻ってこれたのは0時を過ぎた頃だった。 「ただいま……」 疲れた声で挨拶をする私に、答えてくれる人はいない。当然だ。その異変に気づいたのは手を洗おうと、洗面所に向かってるときだった。 「ん?」 下の娘のドアが開いてるような気がしたのだ。 「あれだけ、ドアを閉めなさいって言ったのに……。」 私は溜息をつきながらドアを閉めようとした。――と、次の瞬間、私は背筋を凍らせた。 「じゃあ、次はお姉ちゃんの番ね。……お姉ちゃん?どうしたの?」 バンッ 「わあっ!?」 突如聞こえた大きな音に娘はビックリしていたが、私はそれに構ってる暇はなかった。……部屋の中は酷い有様だった。部屋中のあちこちになにかの絵が飾られている。……何枚も……。そして、ベットにより掛かるようにして座っているのは、上の娘だった。着替える前だったのだろう。スーツのままだった。……しかし、注目すべき場所はそこじゃなかった。上の娘の下には血溜まりができていた……。 「これは……どういうことなの……」 別に答えが欲しかったわけじゃない。自然と口から出た言葉。しかし、下の娘は答えた。 「え〜、だって、お姉ちゃん、遊んでくれないんだもん。だから、今遊んでいたの。」 「……何をしたか……わかってるの……?」 「うん!お姉ちゃんと遊んでた!……こんな夜中に起きていたのはごめんなさい。……でも、こうしないと遊んでくれないんだもん。仕方ないよね?」 私はその時、初めてこの娘に恐怖を抱いた。私は今までこの娘は大丈夫だと思っていた。……いや、思いたかった。しかし、現実に起こってしまった。これが何を意味するのか、私はよく理解っていた。……この娘は精神異常者だ。だからといって、表沙汰にするつもりはなかった。…………そう、私はにしたのだ。……上の娘の職場には突然だったが、退職届を出した。葬式はささやかにしかできなかった。  ある時、下の娘が一人の女性を連れてきた。 「おねーちゃんだよ!」 そう明るく言う娘に対し、その女性は申し訳無さそうに立っていた。……そんなことが数回あり、ある日、私は彼女に尋ねた。 「貴女、名前は?」 「羽南、です。」 「……はな……。なるほどね。だからあの娘が……」 「?なにか……?」 その娘の名前を聞いて、私は初めて下の娘の行動に納得がいった。 「いいえ、なんでもないわ。……これからも、あの娘に付き合ってね。」 「……はい、時間の許す限りは来るつもりですが……。」 「そう。……連絡を交換しましょうか。」 「え?」 「そしたら、偶然の時だけじゃなくなるでしょ?」 「はい、そうですね……?」 彼女はなんでそんな事を言ったのか理解らないというような顔をしていたが、私にはどうでもいいことだった。 「じゃあ、また来て頂戴。」 「……わかりました。」 パタン 「はな、か…………。」 その名は、上の娘と同じだった。それならば……と思う。……彼女には、上の娘の代わりになってもらおう。そう、下の娘が二度とああならないように……。  私はそう新たな決意を固めると、部屋に向かった……。
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