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晩餐会
本日は、四組のカップルの晩餐。
私の席は、信頼する聖騎士の隣。
そして正面には、私を捨てた元婚約者。
「みなさぁん。仲良くしてくださいねぇ」
元婚約者の隣にゆるふわ聖女が座り、微笑みを振りまく。
よく略奪した私の前で笑えるわ、なんてぼやくのはまだ我慢。
ええ。仲良くしましょう。本日の主役ですもの。
「聖女様の胸の谷間のルビーは贈り物? 私も持ってるのよ」
「うふふ。王子殿下が『大好きだよ』ってくださったのぉ」
王子妃殿下の問いかけに、微笑みを返す聖女。
すがすがしい! 礼儀も罪悪感もなくて!
「ぶふぉッ」
王子が、水を豪快に噴き出してしまう。
人が多すぎて、ややこしい?
この晩餐は、聖女の浮気相手を集めたの。女性同伴で。
整理すると。
浮気常習犯で、隠し子までいる王子と、王子妃殿下。
ワンチャンあればホイホイついてく教授と、婚約者シラーヌ。
短気でゲスの極みの私の元婚約者と、ゆるふわ聖女。
聖女に浮気されまくった聖騎士と、私。
そんな八人の晩餐。期待が膨らんじゃう。
前菜のホタテとエビのマリネでコース、スタート!
「キャハ。かわいいぃ」
聖女が両手をパチパチ叩いて喜ぶ。
鮮やかな盛り付けとはいえ、まあ普通。
いったい何がかわいいのか、私にはさっぱり。
「聖女様の結婚式はいつ頃ですか?」
教授と挙式目前のシラーヌが、幸せ満開で問いかけた。
「まだ婚約したばっかりでぇ、式の日程は未定なんですぅ」
聖女が拗ねたように「すぅ」のとこで、口を尖らせる。
恥ずかしくて私にはできない顔芸。さすがだわ。
「シラーヌは婚約者の浮気を知りたい派?」
「もちろん。でも謙虚で真面目な教授には縁遠い話だけど」
私はここで爆弾投下!
「あら。さっき聖女様と教授はキスしてたわよ?」
「なんのこと? ねえ。なんのこと!?」
掴みかからんばかりの形相で、シラーヌは隣の教授に尋ねる。
教授は震えるほど動揺して、フォークを落としちゃう。
そんなに小心者なら、なぜ浮気しちゃうのかしら?
もういっちょ投下!
「聖女様はここにいる男性、四人全員と関係があるのよ?」
私の言葉で、どよめきが起こる! うん。心地いいっ!
「こンのォ───ッ、悪魔め! 聖女様を貶める気かッ!?」
「あら。疑うなら、聖女様に確認なさって」
元婚約者は相変わらず短気。王族の御前ですのに。もう。
ま、今日の私は悪役だから、悪魔で正解ですけどね。
「聖女様。嘘ですよね?」
「だってぇ、みんな私を愛してるんだものぉ」
「へ?」
悪びれない聖女に、元婚約者は言葉を失う。
「聖騎士は未練たらたら。さっき教授はサクランボの唇を食べたいって、ささやいたし。殿下は机の下で足を絡めてくるし?」
みんなで、バッとテーブルクロスの下を覗く!
慌てて王子は足を引っ込めた!
うわぁ──。キモチワルイ。
「聖女様は悪いと思わないのですか? 私達に謝罪は?」
シラーヌは地球外生命体でも発見したかのように驚愕する。
わかる。まさかここまで堂々と自白するなんて、私も想定外。
「謝罪? 私から誘ってないのに? それに恋は罪?」
聖女はきょとんと首をかしげる。
「なぜ聖女が堂々としてるか、私はわかるわ。落とした異性の数が勲章なの。相手の涙さえ。遊び人を気取る王子と同じよ」
「へッ?」
王子妃殿下の言葉で、王子の声は裏返り、縦笛並みに高い。
「反省も後悔もないから、殿下は繰り返すのよね?」
「いやッ? 大好きなのは、ふわふわな胸だけだよ?」
「フフ。それが言い訳になると思ってるのが凄い。聖女の一生を背負う覚悟がある方が、まだましよ。ね?」
「し、知らなかったんだ……」
元婚約者はうなだれる。
「あら。自分としたゆるふわ聖女よ? 他の男ともするに決まってるじゃない。貞操観念が壊れてるの。中毒よ。一生治らない」
「ぐぬっ……」
運ばれてきたスープは、よく冷えたヴィシソワーズ。
額に汗が滲む元婚約者には、最適のメニュー。
うん。甘みもあっておいしい!
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