花言葉

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 事件から数日間、冴島は悩んでいた。自らが考えもせず関係者を庇ったせいで、山城が傷をおったことで。 「佐々木先輩なら、どう考えますか? 自分のせいで他人が傷ついたら」  佐々木はいつになく厳しい表情をすると、「俺なら気にしないな」と持論を展開する。 「俺たちは刑事で、危険とは常に隣り合わせだ。今回、冴島の行動で山城はけがしたが、それはお前が一般人をかばった結果だ。刑事として正しい判断をしたんだ。気にしすぎるな」  冴島は佐々木の先輩としての助言に救われる思いだった。自信を取り戻した時だった。鍵山が会話の輪に加わったのは。彼は鋭い視線でにらむとこう言った。「やはり、俺が教育係になるべきだったな」と。その言葉で三人の間に緊張した空気が漂いだした。 「冴島、単独行動はお前の十八番だ。人を指導する器じゃないんだよ」鍵山の言葉は鋭い刃物のように冴島の心に刺さった。 「おい、鍵山。言いすぎだ!」と、佐々木が止めるが鍵山は責めて立てることをやまなかった。 「冴島は責任をとるべきだ。一人の行動で貴重な人材が戦線離脱したんだ。お前は今後も捜査一課のチームプレーを乱すに違いない。辞表をだしたらどうだ?」鍵山はそう言い終えると冴島の肩を殴りつけた。  佐々木と鍵山の考えは正反対だが、二人とも自分の信念に従っている。冴島は自身がどうすべきか、深く考えた末に、一つの結論に達した。 「やはり、そうきたか。責任感の強い君のことだから、もしやと思っていたが」  冴島の持つ辞表を見て、警部はため息をついた。 「私としては君に残ってもらいたい。密室の謎を解いたように、素晴らしい知識と分析力がある。チームプレーはゆっくりと身につければいい。そう焦るな」 「警部の評価は嬉しいです。でも、チームプレーは苦手なんです。それに、自分の行動で誰かが傷つくのを見るのは耐えられません」  冴島がデスクに辞表を置くと、警部はそれ以上言葉をかけることはなかった。
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