密室はいかにして作られたか

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「それで、本当にこれで密室空間ができるのかね?」警部は不安そうに眉をひそめ、冴島に問いかけた。 「安心してください。まずは、窓をほんの少しだけ開けておきます。さて、ここで注目すべきはリビングにつながるドアです。ドアの下を見てください」  山城は言われた通りにリビングのドアの下を覗き込むが、やはりその意図がすぐには掴めない。 「どういうことですか?」 「よく観察すると、ドアの下には隙間がないことが分かるはずだ」と、冴島は説明を始める。 「この建物はだいぶ古く、改正された建築基準法が適用されていません。近年ではシックハウス対策として、室内の空気を循環させるためにドアの下にアンダーカット――つまり、わずかな隙間を設けることが義務付けられています。これによって、二十四時間換気が可能になるんです」  山城はその話を聞き、少しずつ理解が進んだ様子だが、なおも疑問を口にする。 「なるほど。でも、それが密室だったドアが開きやすくなるのと、どう関係があるんですか?」  冴島はさらに説明を続けた。 「アンダーカットがない場合、室内と外部の気圧差によってドアが開かなくなることがあるんです。特に、この部屋のように気密性の高い空間では、ドアが密閉状態になり、外部からの圧力で閉ざされてしまうことがある。ここでポイントになるのが、先ほど少し開けた窓です。警部、冷房をつけてください」  警部が冷房のスイッチを入れた。瞬間、ヒューという冷たい風が室内を駆け巡り、空気が急激に冷却される。その涼しさが部屋全体を包み込むと、少しだけ開いていた窓が、自然にさらにわずかに動いた。 「え、嘘。幽霊でも出たんじゃない?」臼井が怯えたように声を上げる。 「違います」と、冴島は冷静に否定する。 「暑い日に急激に冷房をかけると、温度差によって窓枠がわずかに変形し、圧力差が生まれます。その結果、窓がわずかに開くのです。これは科学的な現象であり、超自然的なものではありません」  冴島は彼女を安心させると、さらに続ける。 「さて、窓が少し開いたことで、このリビングの気圧が変化しました。山城、ドアを試しに開けてみろ」  山城は慎重にドアノブを握り、ゆっくりと引いてみる。すると、先ほどまで全く動かなかったドアが、今度は抵抗なくすんなりと開いた。 「あれ、さっきは開かなかったのに……」  その瞬間、全員の表情が変わった。南がこの現象を利用して密室を作り上げていたことが、誰の目にも明らかになったのだ。 「これで、密室の謎も解けました。南さん、あなたの負けですよ」と冴島は宣言した。  南はしばらく無言だったが、やがて、冷たい笑みを浮かべながら、静かに口を開いた。 「ふふ、まるでシャーロック・ホームズみたいね。ええ、そうよ。赤松が私を捨てて臼井と付き合い始めたから、殺してやったのよ。ついでに臼井に罪を着せようとしたんだけど台無しね」  そう言うと、南はゆっくりとポケットに手を突っ込んだ。手に握られていたのは、鋭く光るナイフだった。 「いいわ、このナイフであなたを殺してあげる。あの世で赤松と一緒になりなさい!」南は狂気に満ちた目で臼井を見据え、ナイフを振りかざした。  冴島は反射的に臼井の前に立った。自分の身を守ることを諦め、臼井をかばうための決断だった。その瞬間、赤い血が飛び散り、辺りに血飛沫が舞った。冴島の目の前には、倒れ込む山城の姿があった。 「先輩、少しは……考えてから行動してくださいよ」と、山城は苦しげに呟いた。彼女は冴島を守るために、身を投げ出し、背中でナイフを受け止めたのだ。 「おい、山城! しっかりしろ!」冴島は山城の体を支えながら叫んだ。 「くそ、こいつめ!」  警部は怒りに震えながら、南を取り押さえ、手からナイフを奪い取ると、素早く手錠をかけた。  冴島は山城の傷口を必死に押さえながら叫ぶ。 「警部! 早く救急車を呼んでください!」  南の狂気に満ちた笑い声が遠くに響き、緊迫した状況の中で、誰もが時間が止まったかのように感じた。
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