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 あの夜。  僕は、今でこそあまり見かけなくなったトタン屋根の上で、同い年の朋ちゃんと、2人並んで体育座りしながら、満天の星を見上げていた。 「どう?すごいだろ」 「ほんとだぁ、すごーい」 「いいだろ?この場所」 「うん。でも……」  自慢げな僕の横で、朋ちゃんはなぜか急に寂しげな顔になり、 「お月さまがいない」 「え?だからよけいに星がきれいに見えるんじゃん」  そう。今夜のように、初冬の月明かりのない夜は、星がひときわ数も輝きも増す。 「でも……お月さまもいたらもっとよかったのに……」  なおも朋ちゃんは言う。 「朋ちゃんって、ホントにお月さまが好きなんだね」  そう言うと、彼女はコクリと頷いて、 「お月さまを育てるのが好きなの」  と、不思議な答えが返ってきた。 「ふーん」  よく分からなかった僕は、初冬の夜空にちりばめられた星たちに視線を戻し、 「じゃあ、ちょっと残念だね」  朋ちゃんに寄り添ってみる。  彼女は首を横に振り、 「お星さまも、好きだよ」  そう言って、ニッコリした。と、 「星也、朋ちゃん、そんな所にいたら風邪引くよ。入りなさい」  僕たちを呼ぶ母の声が聞こえた。 「はーい」  2人同時に返事をして、家の中へ。そして、階段を降り、玄関を出ようとする朋ちゃんに、 「また一緒に見ようよ」 「うん」 「次の土曜の夜で、いい?」 「うん」  朋ちゃんは手を振り、満月のような円い顔に笑みを浮かべ、隣の家に帰っていった。  当時小学1年生の彼女とは、物心つく頃からの幼馴染み。  そんな彼女に、僕は特等席からの星空を見せたくて、この夜、初めて自分家のトタン屋根に連れ出したのだった。
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