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最終話
side雪夜
迫り来る熱さと黒煙、正直キツい。
「ゲホッ…ゲホッ…!!」
朝香がすでにキツそうだ。
「朝香、ゲホッ!出来るだけ、呼吸をしないで…っ、ゲホッ!」
朝香は僕の首にギュッとしがみついて泣いている。
「雪夜さんっ…本当にごめんね…ごめんなさいっ…」
何を謝っているんだ、僕の命よりも大切なんだからこうするのは当たり前のことなのに。
「そんなに謝らないで、朝香。愛してる。」
今のうちに言っておかないと。
ここから生きて出たいけど、もしもの時のために言っておかないと。
「私も……私もよ、雪夜さんっ…!!」
これからはこんな腐った国を捨てて遠くで暮らそう、きっと楽しいよ、僕たち二人なら。
2階に降りたら火が僕たちの行方を遮った。
「雪夜さん…!無理だよ!こんなの!」
朝香はその火を見て僕を止めようとした。
「でももう、進むしかないよ。
大丈夫、火傷なんかさせないから。」
「違うっ!雪夜さんが火傷するから!」
僕のことなんてどうだっていいんだよ、本当に朝香は優しいから困る。
朝香が生き残れるならどこが燃えても構わない、その思いで炎の中に突っ込んだ。
「う゛っ…!!!」
炎は容赦なく僕の背を焼いて意識を奪おうとする。
それでも僕は必死に走った。
ただ、朝香だけは燃えないように、ただただ走った。
正直、一階をどうやって走って行ったかはあまり記憶がない。
ただ覚えているのは、半狂乱になった朝香の声と轟々と襲って来る炎。
大丈夫、もう少しだ。
もう少しで僕が侵入して来たあのドアに辿り着く。
外にさえ出れば僕たちはもう自由だ。
早く酸素が欲しくて倒れ込むようにドアを開けた。
「ゲホッ!ゲホッ…!!!」
ドアを開けた瞬間、ずっと欲しかった酸素が僕の肺に入って来た。
片手で朝香を抱っこしているから腕がブルブル震える。
アドレナリンが出ているんだろうか。
背中が燃えてバチバチ聞こえるけど痛みがない。
そんな時、不意に腕が楽になった。
朝香が僕の腕から降りたのか?
朦朧とする意識の中、必死に頭を上げたらスーツを着た男が目に入った。
そいつが僕の朝香を抱き上げている。
「あ………あさ……か……。」
返せ、俺の妻を、最愛の人を返せ…!
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