1人が本棚に入れています
本棚に追加
第2話
side雪夜
怒りは人の正気を奪う。
生きて出られない恐怖の施設に入り込むのに微塵の恐怖も感じなかった。
感じているのは怒りのみ。
僕の妻を攫いやがった奴らを皆殺しにしてやる。
僕はとある清掃員の男を一人殺した。
施設に入るIDが必要だったからだ。
別に罪悪感などない、この施設で働き金をもらっている時点でコイツも奴らと変わらない、僕の敵だ。
入り込むのは最も簡単だった。
問題は出る時だ。
僕の正体が知れたら迷わず殺されるだろう。
そうなれば朝香は死ぬまでここの奴らに酷い事をされる。
ここに人間の尊厳なんてものは存在しない。
だからこそ僕は早く、愛しい妻を迎えに行かなければいけない。
僕には何もない、僕には朝香しかいないのだから。
全てどうなってもいい、だからこそ僕は家にあったダイナマイトを3本持ってきた。
清掃道具の蓋付きのバケツの中にはたっぷりとガソリンも入っている。
荷台に乗せて行動するから誰にも怪しまれることはない。
ここは10階建ての施設で、人体実験は最上階で行われていた。
僕の計画はこうだ、まず人体実験室の人間を皆殺しにして朝香を救出する。
その後、床に火をつけ僕と朝香は階段で逃げてこの地獄のような施設を出る。
どうして床に火をつけるのか、その理由は簡単で俺は荷台とバケツに細工をしていた。
穴を開けるという単純な細工だ。
バケツの底に18ゲージの針が通る程の穴を開け、荷台には少し大きめの穴を開ける。
針が突き出たままのバケツを荷台の穴に合わせてセットする。
18ゲージはかなり太い針だから僕が荷台を動かすたびにポタポタとガソリンを勝手に床に撒いてくれた。
だから後は火をつけるだけでいい。
ここにいる人間を全員焼き殺してやる。
僕の妻を攫った報いだ。
エレベーターに乗り、全ての階を練り歩いて僕はとうとう最上階に来た。
途方もないと思わせるほどの長くて真っ白な廊下。
右側の壁はその部屋ごとにガラス窓がついている。
そこは小学校の時に見た工場見学の現場と少し似ていた。
中にいるのは商品ではなく、一人の人間。
僕の最愛の人だ。
動物のように裸にされ、何かの能力で宙に浮かされた哀れな妻は青く光る無数の管が体に刺さりとても見るに堪えない状態だった。
怒りは人を凶暴にする。
そして行き過ぎた怒りは人を冷静にさせるものだ。
僕はIDを使って朝香が吊るされている部屋の隣に入る。
でかい画面には俺の頭じゃ理解できない単語でいっぱいで、データがたくさん書かれていた。
バケツを持った清掃員が入って来たせいか、中の研究者たちは世界で一番間抜けな顔をしている。
「お前ら、1秒でも早く死ね。」
僕は殺意を込めてガソリンをその部屋にぶち撒けて予め用意していたガスバーナーで点火した。
「なっ!何を!!」
「キャァァァァァァアッ!!」
「火を消して!!!」
「水!水を!わ゛ぁぁぁぁっ!!!!」
随分と騒がしい、呆れ半分でドアを閉じて数秒でドアまで火が回った。
最初のコメントを投稿しよう!