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「よくやってくれました。
僕なら出来ると思っていましたよ。」
その声を聞いてギョッとした。
聞き覚えがある。
と言うより…
僕の声だ。
「え?」
唖然としている僕を見下ろしていたのは、正真正銘僕だった。
「何で……?僕が……?」
動揺して腰が抜けて視界がぐるぐると回る。
「君は僕の能力の一部ですよ。
僕の能力は簡単に言えば忍者の分身の術のようなもの。
朝香と比べたら大した能力ではありませんが、こんな日には大いに役立ちました。」
ニコニコと嬉しそうに語る僕。
何を言っているのかさっぱり分からなかった。
「な…何を言って……僕は…朝香の妻で、あ゛っ!」
視界が真っ黒になり顔面に鋭い痛みが走った。
「雪夜さん!!やめて!」
「黙れ、僕が本物だ。朝香は僕の妻、お前の物じゃない、立場を弁えろ偽物が。」
朝香は泣いてもう一人俺に縋っている。
「この雪夜さんもあなたの一部でしょ?
傷付けないで、ね?」
もう一人の僕は愛おしそうに朝香に頭を寄せた。
「優しいね、朝香。」
「朝香に…気安く触るな!!!
偽物はお前だ!!」
僕の言葉を聞いて鋭く冷たい視線が突き刺さる。
「雪夜さん、お願い。もう苦しめないで…あなたの苦しむ顔は見たくないの、お願いだから…。」
朝香はもう一人の僕に縋っていた。
「分かりました、朝香に免じて。」
僕の優しい声を聞き、朝香は安心したようにもう一人の僕に抱きついた。
その僕は懐から銃を取り出す。
もちろん銃口はこちらに向いていて僕は死を悟った。
「おやすみなさい、偽物の僕。」
勝ち誇った笑みを見てすぐに乾いた音が僕の鼓膜を突き抜けた。
痛みを感じたのは1秒にも満たない。
自分の脳みそが破壊される音がした。
視界は端から黒くなり、愛しい朝香が見えなくなっていく。
どちらが本物か偽物かそんな事はどうだっていい。
僕は朝香を愛している。
それだけは変わらない、たとえ僕が偽物だったとしてもこの思いだけは本物だったから。
ひたすら走った、ただ彼女と生きるために。
この愛は本物だ。
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